九月

ブレット・トレインの九月のレビュー・感想・評価

ブレット・トレイン(2022年製作の映画)
4.4
この作品の映画化が決まった時にはまだ映画を今ほどは観ていなかった、どころか全然なくても困らないものの位置付けだったように思うけれど(今では考えられない…)伊坂幸太郎が大好きで、絶対に観たいと心待ちにしていた本作。
日本で映画化するなら檸檬と蜜柑は誰かと何度も考え、結局答えは出ぬまま、まさかハリウッドで映画化されるとは。

予告編を観た時に、『マリアビートル』がもとになっているとは言っても、新幹線という舞台と、そこに殺し屋たちが大集結、という大まかな設定だけを引っ張ってきたようにしか思えなくて、あまり期待しすぎずに観に行った。しかしながら、これが思いの外原作に忠実な部分が多くて少しびっくり。とても楽しめた。脚色もすごかったものの、その具合も結構好きだった。

伊坂ファンの十年来の友人と四年ぶりに再会して一緒に観に行き、そういえば学生の頃、彼女にハードカバーの『マリアビートル』借りて一気読みしたなぁ…とか、レディバグ、レモン、タンジェリンのかっこいいのにどこか抜けてるこの感じ、それに王子の憎さ、彼らが絶妙にすれ違ったり噛み合ったりしていく、あぁこんなんだったなぁ…とか思い出してしみじみ。完全に思い入れによる補正が強い。

全体的にコメディ感が強かったものの、そこまで大笑いできるようなシーンはなかったような。愉快な会話が散りばめられ、楽しい雰囲気がずっとあるけれど、特に笑いどころはなかったような気もする。とは言え、見てみたかったアクションが詰まっていてとてもワクワクした。閉鎖された空間で繰り広げられるアクションシーンは、今まで見た中で一番と言っても過言ではないくらいかなり好き。
登場人物たちも魅力的で、ところどころ全然違ったりたまに違わなかったりする日本の描写なども含め、絶妙に愛着の湧く作品だった。

隣の席の人が、映画中(上映前からなんとなく怪しい動きはあった)ずっと爆笑していて、本当にびっくりするくらい謎のツボで怪しく思っていたら、しまいには「Oh shit!」とか口に出すからどういうことやら大困惑。その後がっつり英語で会話が繰り広げられていたので、外国の人だったのかと思いながらも、度々意識が飛んでしまった。隣に人が来ないことを少し期待して端の席を選んだのにちょっとツイてなかったなぁ…と思いつつも、この作品の本筋とも通ずる部分があり、それさえも楽しかったと思えた。

そして帰り道、ひとりで電車に乗り込み急激に心細くなる。
九月

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