TakahisaHarada

BLUE/ブルーのTakahisaHaradaのレビュー・感想・評価

BLUE/ブルー(2021年製作の映画)
3.6
誰よりもボクシングを愛していたけれど、自身は何者にもなれなかった瓜田が主人公(タイトルの「BLUE」は青コーナー=ランク下位、挑戦者の意味)。吉田恵輔監督が「ボクシングの光と影は描かないといけないと思っていた」と語っている通り、ボクシングのかっこよさも危険と隣り合わせであるということも伝わる内容。

好きなボクシングで何者かになろうともがく瓜田のキャラクターがとにかく印象に残る。後輩に弱いと言われ反論できない、おばちゃんにいつまでこんなこと続けるのと言われたときの「他にやりたいことがない」、大阪で負けて帰ってきて1人でコンビニ弁当を食べながら呟いた「違う、違う」とか、これでもかというくらい悲哀が漂う描写。
中盤以降はその愚直さの中にも人間味があったことが伝わる場面が多くて、小川に言った「ずっとお前が負けることを祈ってた」は引退する決意をしたからこそできた懺悔だったのかなと思った。比嘉戦を最後にするつもりだったと会長は言っていたけど、瓜田が本当に引退を決意したのはバックステップして左フックのカウンターを難なく決めた小川を見たときだったんじゃないかと思った。
千佳にバンテージを巻きながら言った「後悔してないよ、でも」も印象に残ってて、継ごうとした言葉は何だったんだろうと考えてる。ボクシングの道に進んだことは悔やんでないけど、千佳への思いには未練があるっていう描写だったのかな。 その未練も断ち切り2人の前から消えたと考えると切ない。

結局何者にもなれなかった瓜田だけど、彼のおかげで小川はチャンピオンになり、楢崎も夢中になれるものを見つけて、周りの人間に波及したことを考えれば決して無意味ではなかったという人間讃歌的な終わり方だったなと思う。ラストシーンも瓜田の中でボクシングへの情熱はまだ生きている、希望的な終わりに見えた。
(観た後で思い浮かべたのはSASUKEの山田勝己…笑 自身は完全制覇叶わず引退したけど多くの人を突き動かしたし、黒虎を結成して後進を育ててる。家族に迷惑かけたり何かを犠牲にしてもやりたいとSASUKEに没頭、嫉妬や傲慢さもある人間臭い人物)

瓜田も小川もあまり明るくない描写が多い分、楢崎のコメディ(プロライセンス、雑誌で三上を発見とか)でバランスを取ってるのが良かった。瓜田からの継承とも言える比嘉戦で、判定負けで喜んでた描写も楢崎なりの手応えが伝わってきて良い。
実際にボクシングするシーンはプロのような迫力こそないけどリアルに演じきっててすごかった。ただ、楢崎比嘉戦の後半(瓜田のアドバイスを反芻しはじめて以降)はさすがにわざとらしいなと思ってしまった。
中盤、小川のパンチドランカーの症状を視覚効果で見せてるところも印象に残るシーンだった。