バリカタ

明日の食卓のバリカタのレビュー・感想・評価

明日の食卓(2021年製作の映画)
4.5
かなり重いテーマです。
僕の知人を誘ったら
「自分の家庭と同じような状況を描いてる。
辛くなりそうだからやめる」と言われました。
僕は子育てをしたことがないので、完全に
共感できるか?というと自信なんてありません。
ですが、三人の女優さんたちの説得力ある演技
を見れば否応なしに理解できる作品です。
もちろん、三人以外の演者さんたちも見事です。
重くて、演技により厚くなったまさに重厚な一作と
なったのではないでしょうか?

親の心子知らず。とは言いますが、その逆もしかり。
子供は親(大人)をよく見てるってことがよくわかります。
親の態度、対応がどれだけ子供に影響を与えるか?
が手にとるようにわかります。
僕が親だったら最後まで観れたかな?って思います。
観続けていると恥ずかしいやら恐ろしいやら。
感情の微細な揺れも見逃さないのでしょうし、
他愛もないと思っての発言も子供にとっては
重要だったり。
そして親子と言えども別の人間。
わかって欲しくてもわかってもらえない。
伝わっていると思ってもそうではない。場合によっては
全く異なる解釈をされてしまうとか・・・。
これが毎日顔を合わせる家族間であるわけですからね。
本当にお子さんがいらっしゃる方々のご苦労は
想像を絶しますね。

これほど親子関係のインサイドワーク(で良い?)
をクローズアップした作品は初めてでは?
描かれる話はどこにでもある話だと思います。
前述した誘いを断った友人の家庭状況は
菅野さんの家庭と全く同じ状況なんです。
旦那さんの家庭への参加具合とか、不倫の疑い、
菅野さん演じる女性のような家+仕事も含め全部。
そして起こっている事件も発言もまるで一緒、
気持ちも一緒。友人と話をしていて、怖くなりました。

「愛情」って安易な言葉では説明できないのが
家族なんだろうなぁって思いました。
「家族」だからうまくいくなんてこともないのですね。
明日の食卓がどうなっているのか?どんな料理が
並ぶのか、誰と食卓を囲んでいるのか?
希望と理想があり、それを目指しても
うまくいくことも、行かないこともある。
なんと不安な世界なんでしょう。
でも、食卓の景色を作り続けていくしかないんですね、
家族ですから。
この作品は、なかなか見ることができない
「他人の家族」を見て、自浄するような作品なのかも
しれません。

三人の女優さんの圧倒的な演技でぐいぐい魅せて
くれる作品です。また、親子の事件の使い方が
とても効果的に使っており、より話に深みを与えて
くれますし、それが物語に引き込んでもくれます。
ただ、尾野真千子さん宅の終わり方が
僕としては消化不良だったかな?
けど女優さんの演技だけでも価値ある一作。

秀作です。