ヨーク

Mr.ノーバディのヨークのレビュー・感想・評価

Mr.ノーバディ(2021年製作の映画)
3.6
面白かったかつまらなかったかで言えば面白かったんですけどねぇ、でもなぁ~~、ちょっとなぁ~~、そんなに素直には褒めたくないなぁ~~、という感じの『Mr.ノーバディ』でしたね。うん、この映画を素直に最高だぜ! って称揚できるほど無邪気ではなくなったのかもしれない、俺は。
ちなみに本作は当初は観る予定は全くなくて本当は『映画大好きポンポさん』を観ようと思ってたんだけどポンポさんの方は時間が間に合わなくて急遽こっちを観たのでした。なのでまぁいつも通りだがどんな映画なのかよく分からずに観たわけだ。そういう感じで映画の冒頭を観ていたのだが序盤の展開で先日観たばかりの『アオラレ』のB面的な映画なのだろうかと思った。劇場へ入る前にちらっと見たポスターにも「地味な男が派手にキレる」とか書いてあったし映画の最初の10数分くらいは主演のボブ・オデンカークが自宅と職場を往復して家でも職場でも軽く扱われている様子を延々と描写したものになっているのだ。妻からも男として見られていないし子供からも舐められている。職場でも存在感のない男として描かれる。これはもう『アオラレ』の冒頭でブチギレて妻とその再婚相手を殺したラッセル・クロウのような状態ではないのか『アオラレ』では省略されたラッセル・クロウが狂ってしまう過程を描く映画なのではないか、と期待したわけだ。
でも全然違ったね。まぁストレスが極限まで高まったボブ・オデンカークが盛大に大暴れするという意味では『アオラレ』に似てはいるが、ラッセル・クロウがどこにでもいる男が全てを失って狂ったのに対してボブ・オデンカークは実はかつては凄腕のエージェントだか殺し屋だったらしいんですよ。そこで何か一気に冷めたね、俺は。どこにでもいるおっさんが狂ったんじゃなくて最初から超お父さんだったんじゃん、裏家業から足を洗って昼行灯な暮らしをしてたけどムカつくことがあったから昔のやり方でそれを発散しただけじゃん、ってなってそれはアクションと暴力を描くための都合のいい設定に過ぎないんだよなぁという気持ちになっていまいちノレなかったんですよね。
さらに言うと本作には父権の復権(ダジャレではない)というようなテーマもあると思うんだけど、要するに冒頭で描かれたような失墜した父親としての権威を腕っぷしの強さを示すことによって取り戻そう、という構造の映画になってると思うんですよ。まぁ古くせぇ描き方だなとは思うが、そこは別に男の強さを描く映画はあっていいと思うし女の包容力的な優しさを描く映画もあっていいと思うんだが、その手段が殴って蹴って銃を撃って爆発してっていうんじゃあまりにもストレートすぎて面白みがなくないか? とも思うんすよ。一言で言うとテーマも描写も安易なんですよ、本作は。自分を軽んじる家族からもう一度敬われる存在になるために家族の敵をちぎっては投げして、そしてその結果家族からは「お父さん強い! 格好いい!」てなるわけですよ。セックスレスだった妻からも「あなた素敵! 抱いて!」てなるわけですよ。さすがにちょっとイージーな男の夢すぎてバカバカしくないか、と思う。そこはすげぇ不満だったね。
ただまぁ俺も男として、いやオスとして暴力でも権力でもいいけど強大なパワーをもって他者を支配したら気持ちいいだろうなという部分はあるんですよ。そういう願望は多少はあるし何だったら男に限ったものでもなく権力志向が強くて人の上に立ちたいと思う女性だっているだろう。だからそういう父権の復権みたいな物語もあっていいと思うんだけどさ、でもどっかに自己批判的な目線はほしいなぁと思うわけですよ。男の願望でも女の理想でもそれを全開にして肯定するだけの物語だとどうしても幼稚に見えてしまうんですよね。まだ二十歳くらいの頃に本作を観たら多分「最高だぜ!」って絶賛してたと思うんだけどいい年こいた今ではちょっとブレーキかけちゃいますね。
とはいえだ、とはいえまぁ殴って蹴って銃を撃って人が死にまくる映画なので面白いかつまんないかで迫られたら面白いとしか言いようがない作品であることも事実なのだ。これは映画を観た後に知って、なるほどなぁー、と得心したのだが本作は『ジョン・ウィック』の脚本家が書いたお話らしい。お前、バンバン銃を撃って人がたくさん死ねば面白いと思ってるだろと言いたくなってしまうのだがそれは映画としては事実でもあるので何とも言えないところでもある。まぁシナリオ的には『ジョン・ウィック』も大概しょうもないお話ではあるのだが、あれはやっぱキアヌ・リーヴスという役者があってこその作品なんだよな。ちなみに俺はボブ・オデンカークという役者が嫌いなわけでも何でもないし、むしろ本作での佇まいとかは壮年男性の魅力もあって渋かったと思うのだが、よく知らない人であったために本作のシナリオを必要以上にシリアスに受け取ってしまったというのはあるかもしれない。仮にこの映画の主演がキアヌ・リーヴスだったら最初からバカみたいな映画だろうと思って観て、本作を絶賛していたと思う。
あとはアクションはキレキレというほどではないけど気持ちよくて良かったですよ。特にクレイモアの使い方はバカバカしさとクールさがあって良かったと思う。ライオットシールドとの合わせ技は今まで観たことがない使い方だったと思うのでちょっと唸りましたね。
まぁ自宅で飲みながら配信とかレンタルで見てたら結構面白がって見たような気もする。それくらいの気持ちで見るのが丁度いい作品ではないかな、と思いますね。
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