ヨーク

セリーヌとジュリーは舟でゆくのヨークのレビュー・感想・評価

3.3
恐らく渋谷のミニシアターを皮切りに数年前から散発的にジャック・リヴェット特集が組まれていて、その度に(観ておきたいなぁ…)と思いつつ予定が合わなかったりで悉く観逃してきていたのだがついに観ることができましたよ。ということで初ジャック・リヴェットとなった『セリーヌとジュリーは舟でゆく』でした。
ちなみに今までずっと未見ではあったのだが俺の人生の中でのジャック・リヴェットの思い出といえば、中1くらいの頃に近所のレンタルビデオ屋で見つけて(これはきっとエッチな映画に違いない…!)と確信して借りようと思ったんだけどパッケージ見たら240分とか書いてあってエロ目的でそんなクソ長い映画なんか見てられるかよ…! と思ってそっと棚に戻したという思い出がある。結局リヴェット作品が未見であることは変わらないのだが、まさかそれから何十年も経って同監督の映画を劇場で観ることになるとは当時の俺は思いもよらなかったであろう。しかしそれはそれで感慨深いものである。
まぁ俺の思い出話はどうでもいいのだが、肝心の映画の方はどうだったのかというとスコアを見ていただければ分かるかとも思うが、うん! あんま面白くなかったね! まぁリヴェットの紹介文とかを見るとヌーベルバーグがどうだのゴダールへも影響を与えただのなんだのとあるように娯楽映画ではなくアート映画方面の人だというのはよく分かるし、その辺のこともあってシネコンとかで客が入るタイプの映画ではないのは明白だから都内の名画座的な劇場で特集上映などをやっているのだろうということは分かるが、いやその辺を加味して観てもお世辞にも面白い映画っていうもんではないだろ! という感じでしたね。正直ゴダール先生の方がよっぽど客という存在を意識して、幾ばくかのチケット代を払って観に来てるんだから多少はお客さんを楽しませないとな、という意識が垣間見える感じでしたよ。今も特集上映をやってるケリー・ライカートとかちょっと前にやってたシャンタル・アケルマンなんかはリヴェット作品(と言っても俺は本作しか知らんが)と比べたら娯楽超大作と言ってもいいだろうと思う。それくらいに本作は好き放題に作っていたと思いますね。まぁその辺の自由さが肩の力抜けてて脱力しながら観るにはちょうどいいという部分でもあったのかもしれないが。
お話はなんかとりとめのないものなんだけど、フィルマークスのあらすじ紹介にもあるように公園のベンチで魔術の本を読んでいた司書のジュリーが魔術師セリーヌと出会ったことから始まる奇妙な冒険、というのが一番簡潔で分かりやすいであろうか。このジュリーがセリーヌを追いかけていくという冒頭のシーンがいかにも『不思議の国のアリス』っぽくてそこからどんどん不思議な世界へと迷い込んでいくような構成になっているんだけど、その冒頭部分からもう自由というか適当というか逸脱というか、即興で撮ったしょうもないシーンをだらだら垂れ流しているだけという緩い感じで進むんですよね。
いや、正直言うと最初のその10数分くらいはちょっと面白いなと思ってしまった。邦画だろうがハリウッドだろうが大作映画にはそれなりのメソッドがあってその方向性に沿ってある種の型通りな展開になるもんだが、全くそれを感じさせない本作の冒頭は面白かったんですよ。でもまぁそれは最初だけだよね。だって本作のランタイムは192分もあるんだけど終始そんな調子でどうでもいいシーンばかりが続いていきますからね。映画が始まって30分以上経っても特に何も起こらない辺りから急速にどうでもよくなってそこからスヤァ…でしたよ。
いやー、これは100分でいいんじゃないすかね、という気はしたな。まぁ80~90分くらいでも全然いいのだが、多分限界値としても100分くらいならいい感じに楽しく観れたんじゃないだろうか。だって途中から本当にどうでもいい繰り返しばかり描かれるもん。繰り返されるイメージとか円環構造になってることとか、劇中劇的な効果を持つ魔術でその鍵が飴ちゃんとか、一個一個はいいモチーフだなと思うものはあってもそれらが絡み合って一つの物語へとは昇華していないと思うんですよね。んでそれは単純にリヴェットが下手くそだからだろ、という気がする。それも全て3時間超という長尺が良くないんじゃないかなって気がするよ。キャラとか設定はユーモラスで結構好きだったんですけどね。まぁ根本的に演出がつまんねーのでは? という疑問もあるが…。倍以上のランタイムがありながら最後まで緊張感を保っていた『サタンタンゴ』はやっぱ凄かった(まぁかなり寝たが…)んだなと思いましたよ。
ちなみにポイントポイントでは主役の二人の女の子が、型通りではない個性的なかわいさを発揮していたり、不意に笑っちゃうシーンがあったり、衣装がお洒落で格好よかったりという良い部分はそれなりにはあった。あと主役の片割れが若い頃の野沢雅子に似てたのでそこも個人的に好きでしたね。
ただ全体的にはつまんなかったです。ちなみに観た後に「これリヴェット作品では結構面白い方だよ」と言われて軽く絶望したので残りの作品も観るかどうかはかなり微妙です。まぁ、機会があればできるだけ観ようとはしますが…。
ヨーク

ヨーク