ひでやん

Mr.ノーバディのひでやんのレビュー・感想・評価

Mr.ノーバディ(2021年製作の映画)
3.9
B級感が漂う極上のハードボイルド・アクション。

月曜日、火曜日…と、スピーディに描く中年男の一週間。1日を2,3秒くらいで描く日常ルーティンのテンポが気持ちいい。ジャームッシュが観たらきっと苦笑いだろうな。地味な男が覚醒し、大暴れする今作は、なんとなく『ジョン・ウィック』に似ていると思ったら脚本家が同じだった。

路線バスファイトがいやはや…やり過ぎだぜ、おっちゃん。そんでマフィアに狙われるって王道だぜ。アクションがスマートではなく、演出がスタイリッシュでもない。いい意味で古臭く感じた。バスのシーンは、泥臭い殴り合いが長年のブランクを感じさせ、徐々に調子を取り戻していく感じが良かった。いっぺん放り出され、終わったと思ったら2ラウンド目に突入するのは笑った。

きっかけは強盗で、引き金は世の理不尽、闘う理由は復讐…ではなくなっている。家族からのリスペクト、ただそれだけのように感じた。「違う違う、あん時のなし。オレ本当はそんなんじゃない」て。普通を演じ続けて地味になり過ぎた男のやるせなさ。裏稼業の男を一瞬で黙らす手首のタトゥー。それはトランプのスペードの7とダイヤの2で、ポーカーのテキサスホールデムでストレートを作ることができない最弱の手札。 これが相手に向いているということは、「このカードを引いたお前に勝ち目はない」という意味らしい。3文字の政府機関てCIAか?何者でもない男はタダ者じゃねえ。

「金をちらつかせる人間は3種類いる」という台詞、一度言ってみたい。拳銃でレコードの針を落とすショットが渋い。棚に並ぶLPレコードが燃えちゃってるのに、「なんて素晴らしい世界なんだろう」と歌うルイ・アームストロング。そして、「なんて強い爺さんなんだろう」と思わせるクリストファー・ロイドが最高。
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