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スペンサー ダイアナの決意のらのレビュー・感想・評価

4.2
ダイアナの心理的な不安を基底とした、エレガントでスタイリッシュすぎる映像に惚れ惚れとした。どうしてこんなに素晴らしい撮影と演出ができるのだろう、と思うほど。そこにしつこく絡み合うジョニー・グリーンウッドのバロック音楽とジャズもダイアナの心情を巧みに表現している。いかにもイングランド(ロケ地はどうやらドイツらしいが)といった曇り空までダイアナの閉塞感と不自由に囚われた内面を反映しているようだ。そして、屋外シーンはほとんど曇天なのにこれがまた美しい。

どんどん幅と深みを増しているクリステン・スチュワートの演技も素晴らしい。身振りとセリフの微妙なニュアンスだけでなく、繊細な表情の変化と視線によってダイアナの複雑な感情を表現している。クリステン・スチュワートの顔のクローズアップで終わるラストは、その妙を完璧に理解した芸当だ。ダンスシーンの優美な身体性も本当に素晴らしくて泣けます。マリーを演じたサリー・ホーキンスの慈愛に満ちた演技も強く印象に残る。

ここにきてパブロ・ララインの演出はますます洗練されている。リアルな伝記映画を期待して観に行った人はきっとぽかーんとするだろう。冒頭で示されるように、この映画は「実際の悲劇に基づく寓話」なのだから。ところどころゴシック・ホラーめいたテイストもあって、その演出が本当に巧みで、ホラー映画好きとしてはパブロ・ララインにホラー映画を一本撮って欲しいとすら思った。
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