MasaichiYaguchi

ホロコーストの罪人のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ホロコーストの罪人(2020年製作の映画)
3.9
第二次世界大戦中、ノルウェーに住むユダヤ人のブラウデ家を襲った悲劇を実話ベースで描いた本作を観ていると、戦争という狂気の濁流に人々は簡単に押し流されてしまう怖さを感じる。
映画の冒頭ではブラウデ家の長男がボクシングの試合にも勝ち、美しいアーリア人のラグンヒルと結婚して幸せ一杯の日々が描かれるが、それがナチス・ドイツがノルウェーに侵攻するや否や、一気に状況は暗転する。
ブラウデ家を含めたユダヤ人はノルウェー人をはじめとしたアーリア人と区別され、挙句は男性たちは何ら罪を犯した訳でもないのに、ベルグ収容所に連行され、強制労働をさせられる。
そして取り残された女たちにも、資産接収をはじめとした過酷な運命が待ち受けている。
この作品が特異なのは、ホロコーストを行ったのはナチス・ドイツだけでなく、隣人であった筈のノルウェー人が加担していることを浮き彫りにしている点。
それが終盤に、ノルウェー秘密国家警察・クヌート・ロッドとその隣人との遣り取りのシーンで象徴的に描かれる。
ノルウェーがホロコーストにノルウェー警察・市民らが加担していたことを認めたのは、70年経った2012年1月だ。
この作品で描かれたことは遠い国の過去の出来事では済まされず、格差や人種差別等の分断が世界を覆っている今の時代に警鐘を鳴らしていると思う。