柊

きこえなかったあの日の柊のレビュー・感想・評価

きこえなかったあの日(2021年製作の映画)
3.3
作品の意味やたくさんの人に知って欲しい、観て欲しいと言う気持ちは私にも大いにあるが、作品としてどうか?と問われればいかんせん起伏が少なくて、途中途中でだれる。当初100分くらいでまとめたと言うが、私はそちらの方を観てみたかった。

なんといっても加藤さんのキャラに尽きると思う。そして時々信子さん。2人ともインパクト強い。表面上は2人とも明るい。でもよく考えたら震災の時、防災無線や避難誘導の声、避難してからのさまざまな情報が聞こえないって…想像してみるだけでもしんどい。孤立、人がどんなにいても孤独という言葉しか浮かばない。どれ程心細いか。ましてやあの震災である。誰もが自分の事でいっぱいなのにと思うとよく生きてきてくれたと思う。でも聞こえない人は本当はもっといるはず。普段の繋がりだけでなく、いざとなったらどうするか?具体的な対策は急務だ。聞こえないから自分から発信することも難しいとちょっと考えると確かにそうなのに、改めて肝に銘じよう。

そして加藤さんに戻るけど、手話が言語として認められなくて、使うことを禁じられていた?そんな事があった事も知らなかった。
だから加藤さんの手話は独特。そしてとにかくニコニコ。それが観ていると辛くなる。相手にきちんと伝えられないから余計ニコニコそんな風に生きてきたんじゃないかな?だから身内やちょっと気を許した人には裏の顔を見せる。加藤さん含め、聞こえないからこそトラブル回避の為の生きる手段だったのかもしれない。
そして周りの人も何となくわかるとか、手話できちんと会話できなくてもジェスチャーやニュアンスで済ませてしまう。誰もある意味本当の加藤さんに触れようとはしない。そんな風にに私には見えてしまった。
コミュニケーションが何よりも大事というお題目の割には、聞こえない人達のコミュニケーションツールを学ぼうとはしない現実。自分も含めて偽善者かと思ってしまうよ。

高校生が手話を教えに来たこととか、聞こえなくて困っている人はいませんか?と言って避難所を回る行動力が救いと言えば言えるけど、まだまだ小さいな。聞こえない以外でも生きるのに困っている人はたくさんいるんだようなぁ。
想像力が今こそ必要だ。

最後の方の信子さんが、随分痩せていた事がとても気になった。そしてこれは予期せぬ事だとは思うけど、加藤さんの突然の死で映画が終わるのはちょっと残念。
柊