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アメリカン・ユートピアのkaitoのレビュー・感想・評価

アメリカン・ユートピア(2020年製作の映画)
4.7
『アメリカン・ユートピア』

Our kids are fucked.

就職活動も落ち着き、ちょうどいいタイミングでスパイク・リー監督の『アメリカン・ユートピア』が上映されていたので観に行った。上映感数が非常に少なく、横浜まで足を伸ばした。だが普段行く川崎よりも交通費がかからないことを知った。

トーキングヘッズのデヴィッド・バーン

かろうじてバンドの名前は知っていたものの、楽曲のテーマ性すら聞いたことがないからほとんど知らないと言っても過言ではない。故に新鮮な視点から鑑賞することができたと思う。

『アメリカン・ユートピア』の総評としては「もしかしたら2021個人的ベストになるのではないか」というところが正直なところであり、円盤購入など人生を共にしたい作品だった。

映画の表面的なところから話していく。
かなりイカしたショーだと思う。装飾はほとんどなく、青のカーテンで三方向が覆われた箱型舞台。本当に必要なものだけを取り入れ、不要なものは排除している。それでいて、ここまで完成度が高く視覚的にかっこいいものを作り上げているのは非常にすごいことだと思う。冒頭から独特な世界観が展開されており、最初はそれについていけるのか懸念していたが次の要素によって引き込まれる。ショーで使われている曲はどれも良かった。Once in a lifetimeやThis must be the placeなどトーキングヘッズの楽曲も組まれており、非常に耳の心地がいい。初めて聴いた曲ばかりだが、今ではApple MUSICでダウンロードして余韻に浸ってしまうほどである。ダンスも激しすぎず、かといって落ち着いているわけでもない。一貫したテーマ性を一貫した雰囲気で届けようとするのが見られた。主演を務めているのは元トーキングヘッズのデヴィッド・バーン。彼の話にはかなり引き込まれる。出で立ちや姿勢、他の演者との掛け合いも見ていて不快なことがないから愛着が湧く。彼のトークは面白く、映画館では多くの人が笑っており、僕にも刺さるお笑いだった。少しダークというか、皮肉が効いたお笑いである。でも皮肉は本当に伝えたいこととかが込められていて、笑いだけで済まされないからハッとさせられることが多い。政治的な皮肉は特にそうだ。
 若干、中盤で飽きがあったことは事実である。演劇ではないのでもちろんストーリー性もない。そのうえ途中までスパイク・リーがこの映画の監督を務めているのが理解できなかった。

が、そんな自分を殴りたい。

満足はしていたものの少し飽きが来ていた自分を再び映画の世界に戻す瞬間があった。それはHell you talmboutのシーンである。残念なことに犠牲となってしまった黒人の人々の名前が挙げられるシーンだ。今までとは違った緊張感が館内に走るのを感じる。Say his name! Say her name!と会場と舞台が一体となる。被害者とその家族のカット。おそらくこれは映画版にのみ挿入されたシーンだと思うが、しっかり生きている。ちゃんとスパイク・リーの映画であることを肌で感じる。同監督作品『ザ・ファイブ・ブラッズ』や『ブラッククランズマン』などでも同じようなことを感じた。躊躇なく惨い写真や映像を挿入する。だからこそいい意味で逃げることができないし、メッセージ性が胸に突き刺さる。だからスパイク・リーの映画は好きなのだ。

このシーンからは特に果敢に引き込まれる。このショーのフィナーレであるRoad to Nowhereもすごく好きだったな。
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