よねっきー

クライ・マッチョのよねっきーのレビュー・感想・評価

クライ・マッチョ(2021年製作の映画)
4.4
イーストウッドが「アップデートの時代」に対して静かに食らわすカウンター。

正直言ってかなり平坦な映画だなあというのが第一印象だけど、不思議と退屈しないこの感じ、そして見た目に反してめちゃくちゃ優しい味な感じ、なんか好きだなあ。全然サスペンスしようとしてない。ブラックコーヒーかと思ったら白湯だった、みたいな。

お爺と少年のロードムービーってのはもう昔からずっとあるジャンルだし多分イーストウッドが何度もやってきたものだと思うんだけど、追ってくる警察とチンピラの間抜けさ(危機をニワトリキックが解決しちゃう感じ)とか、やたらあっさりした少年と爺の別れのシーンとか、そういうお約束シーンの絶妙なハズし方がすげー良かった。血は流れないし、銃は撃たれないし、少年は感動的な決断をしない。それらを省略しちまっても、物語に必要なもんはこれで全て揃ってるじゃねえかと。

しかし「マッチョ」って言葉が否定的な文脈で用いられることが多くなった現代において、この映画の持つパワーは凄まじいのではなかろうか。男性に産まれたことに対して罪悪感や、それに似た感情を抱く人も多い時代である(現代のアメリカなんか恐らく特にそうである)。そこでマッチョの意味を問い直す。それはただただ「男性であること」という意味でしかない。昨今はtoxicなマスキュリニティーばかり取り沙汰されているが、necessaryなマスキュリニティーがあることを忘れてはいけない。命削って生きてる男性のおかげで、この世界成り立ってるんだぜ。男性と女性のどちらかだけがどちらかを搾取しているなんてことは無いと俺は思うよ。

基本的に物語の主旨っぽいことを主人公が語り出す映画が俺は好きではないが、まあこの空気感ならそれも全然アリなのかなと。なんか全く高尚な空気感がなくて、ずっと絵本みたいな雰囲気なんだよな。気負いのないこの雰囲気だからこそ、メッセージは心にまっすぐ届いてくる。
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