「男らしさ」にはいったい何の価値があるのか——?
「男らしさ」で一時代を築いたイーストウッドが、自らその幻想を否定してみせたことは重要です。
常に自分をアップデートできる人は本当に素晴らしいと思うし、それができるからこそ彼はまだ第一線で活躍しているのだと思いました。
自身がマッチョな役柄を演じてきたからこその説得力と、演技を超えた人間としての深みが作品の魅力として表出する点で、近年のイーストウッド主演映画の系譜に連なる作品でもあると思います。
若く強かった頃に想いを馳せるしみったれた話ではなく、美しく希望に満ちた未来を見据えるラブレターのような心地良さもいい。
他の人が撮ればもっと殺伐とした暴力的な作品にすることはできたかもしれませんが、役者としても人としても円熟したイーストウッドにしか作り出せない雰囲気が魅力的です。
元々は40年前の企画ということで、その名残なのかは分かりませんが、イーストウッド御大が女性からベッドに誘われたり、孫ぐらいの年齢に見えるごろつきを拳で撃退したりします。
陳腐に見えそうなシーンでもイーストウッドなら成立させてしまうし、いわゆる「かわいい老人」を見るときのものとは別のまなざしを向けさせる力があることを感じました。これは他の人にできるような芸当ではありません。
年齢を重ねることで体は痩せ細ってしまっても、それは真の「強さ」とはまったく関係ないことである、という作品のテーマをそのまま体現してみせたイーストウッド。
91歳で主演も務めてしまうエネルギーに驚きながら、100歳でもまだやっているんじゃないかと思ってしまうし、そうであって欲しいと願います。