まいとん

新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』のまいとんのレビュー・感想・評価

4.0
漫画ナウシカは土鬼が出てくるあたりからプロットが複数に分かれ別々の物語が同時進行で描かれるようになる
登場人物も一気に増えて非常に分かりにくい構成になっている
この歌舞伎版ナウシカは場面転換が巧みに駆使され原作の良さを損なう事なく物語が見事に圧縮されている
人間関係もよく分かるようになっている

ナウシカで繰り返される霊的な表現や恨みなどの感情は思えば極めて歌舞伎的な要素でありアニメより歌舞伎として見ることが正しい選択肢であるかのように思えるほどである

文芸部の巧みさや美術の絢爛さは歌舞伎の底の深さに触れた気分にさせる
実に豊潤な表現形態である
書き割りはむしろ観客の想像力を喚起させ舞台の向こうの風景が見えてくるのが不思議だ

6時間という長さは通し狂言としてはありえる長さであり物語のダイナミズムを味わうには適当な時間にも思える
入り込んでしまえばダレることなくグイグイ進んでいく

作者宮崎駿は企画に直接の関わらずジブリはダメ出しをしつつ当時の表に出ていない映画資料を提供しただけのようだがむしろそれがよかったのかもしれない

ナウシカが非常に説教くさい作品であることもよく分かる
古今東西の物語要素を換骨奪胎しながら巧みな編集技術で独特なハイファンタジーになっているがメッセージの抹香臭さがあらわになっている

シュワの墓所がAIっぽいのは以前から指摘されていたがAIの負の部分が現実に現れるようになり物語で指摘されている優生思想にも新たな観点が加わるようになっている
環境問題や生物倫理だけでなく他の問題が内包されているかも知れない
時代によって見方が変わる古典なのかもしれない
歌舞伎として見るのも価値が出てくる可能性も感じられた