真田ピロシキ

Arc アークの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

Arc アーク(2021年製作の映画)
2.7
自分に取っては『PLAN75』よりもエゲツなく気持ちの悪い老いのディストピアSFです。死体の時を止めた防腐技術をより進めて不老不死を確立した近未来。しかしその恩恵が受けられるのはその莫大な処置費用が払える人だけで、死という絶対的な平等すら奪い去る最悪の格差社会。しかもその世界で尊重されるのは若く、健康で、美しいという旧態依然とした価値観ばかり。こんな酷い選別といったらないよ。優生思想すら感じられる。さらに出生率は下がっているという言い訳はあったが死なないということは人口は増え続けるわけで、今でさえ限界が近づいているのに限られた資源とかどうするの?宇宙開発でもする?この世界ではその内に人類は殺し合いを始めて皮肉なことに不老不死が滅亡を招きそうだね。それと年齢制限も克服して不老不死がよりカジュアルになった世界では悪徳権力者も恩恵を授かる訳で、最悪でも死ぬことで生じていた変化すらなくなり地獄以外の何物でもない。そういう数々のデメリットには踏み込むことなく、個人の問題として綺麗に落とし込んだ物語には疑問だ。どうも科学への警鐘は描く気がなかったようだが、それのないディストピアSFって一体?そもそもディストピアという認識がないのか。ヤベえ。

近未来SFだがそこで描かれる風景は現代社会と変わりがなく、面白みはないが嘘臭さもなくて不老不死技術の地に足のついた感じを演出されていて、アンドリュー・ニコルの失敗作『タイム』よりずっと世界観に入っていける。撮影等は手堅くて、日本作品の予算内で立派に近未来SFをやれてるのは、少し前にやってたドラマの『17歳の帝国』と通じる。主役の芳根京子は話自体が気に入らないせいか特に響くところもなく。捨てておいてその後探しもせず歳とってから知ったら手を差し伸べようとする普通に身勝手な親だし。最後を飾るのが倍賞千恵子なのでますます『PLAN75』と重なるも、受けた印象はまるで比べものにならず。原作は知らないが、先に挙げた格差の問題とか膨らませようがあったはずなのにほぼスルーでは社会的なテーマには興味がなかったんだろうねと。スポンサーにパソナがあったのもなんだか勘繰らされる。割と期待してたんですけどね。