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エル プラネタのSPNminacoのレビュー・感想・評価

エル プラネタ(2021年製作の映画)
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スペインの冬の海辺、街を歩くのはお年寄りばかり。世間の冷たい風に吹かれながら、お腹を空かせた娘と母は分厚いコートを脱いで愛想笑い。愛猫がここにいたらいいのに、お菓子だけ食べて生きられたらいいのに。
侘しく惨めになりそうな生活には、失われた美しい過去の影がつきまとう。髪を切った娘は「また伸びる」と言うけど過去には戻れず、母娘を変わらず迎えるのはレストラン「エル・プラネタ」だけ。娘はスマホやPC画面を介して他者とかろうじて繋がってる。といっても、こちらが見せたい姿だけを見せる代わりに、向こうから届くのは優しく傷つける現実だ。
若さと老い、未来と過去、都会と田舎、夢と現実の狭間で取り残された女2人。ノスタルジックなモノクローム画面から滲むペーソスはやや浮世離れして、『グレイ・ガーデンズ』をちょっと思わせもする。呪いの儀式、猫ちゃんクッション、小さなアパートは2人だけのお城。そこでは母がクイーン、娘ノオノールは王女なのだ。
そりゃあ永遠には続かない。ならばとママが娘を自由にする呆気ない幕切れが良い。外には世知辛い社会や本物の王室一家がいるけれど、ささやかな誇りもここにある。80~90年代インディ映画のムードとDIY精神、ロマンティシズム。母娘のやり取り、特にレオがちょっと甘えた口調がすごくナチュラルだったけど、実の親子なのね。
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