真田ピロシキ

秘密の森の、その向こうの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

秘密の森の、その向こう(2021年製作の映画)
4.0
寝不足だったのは不運した。つまらないわけじゃないのに最初のうちは結構欠伸してて、そのためにその辺は語れることがあまりない。

本作は祖母を亡くし、その家の整理に行ったら母が家出した8歳のネリー(ジョセフィーヌ・サンス)が森で8歳の母マリオン(ガブリエル・サンス)と出会うというSFともファンタジーとも取れる物語でいくらでも劇的に展開できる題材であるが、その語り口は非常に抑制されている。日本のアニメに影響を受けたと言うので『思い出のマーニー』かと思ってたら細田守らしい。細田守はなんとなく嫌な予感がするので最初以外見ていないのだけど、私が抱く細田守のイメージとは重ならないなあ。

特徴としては劇伴が1箇所を除いてなく聞こえてくるのは鳥の囀りや草木のさざめきで、部屋のカットをはじめとして絵画的に撮られた映像を持って両者の交流が格調高く繊細に描かれていて気品がある。あまり日本作品を腐すことをしたくはないが、日本で同じ題材を実写でやったならやたらと激情をぶち撒けて感動を押し売りして、アニメなら森や窓の光を過剰にエモく表現されてそうだ。本作はその正反対で情感と行間が言葉にされないところに込められていて、73分しかないのに短くは感じない。2時間半をスタンダードにしたハリウッド大作への反発が強いのもあって、この表現力の高さに感服する。

マリオンが娘に優しい未来の夫を見つめる目、フライパンのクレープを放り投げてしまう同い年の母娘、亡くしたばかりの祖母の若かりし頃との交流、バースデイ、そうした派手さのない出来事が宝物のように輝く。それは実の双子姉妹である映画初出演の主役2人が確かに日常というものを感じさせてくれる演技をしてるからで、何というかこれは「本当に映画を見たなー」という気持ちにさせられた。面白い映画と言うより知的で品のある良い映画と言うのがピッタリくる。母娘であり親友でもあるラストシーンの救われた感じがまた素晴らしい。