九月

秘密の森の、その向こうの九月のレビュー・感想・評価

秘密の森の、その向こう(2021年製作の映画)
4.5
母親にも子ども時代があり、自分と同じだけ年齢を重ねてきたという当たり前のことに改めて気が付きハッとする。
また、ある意味では今よりも大人な一面もあったかもしれない子どもの頃の自分や、たまらなく大人に憧れてごっこ遊びをしていたことなどを思い出す。

冒頭、母親が運転する車の後部座席に乗ったネリーがシートベルトをしっかり締めて、お菓子を食べてもいいか聞く。その光景からとても引き込まれた。
お母さんにもお菓子を食べさせてあげて(さらにはジュースも飲ませてあげる)後ろから抱きつくところが何とも微笑ましい。
そういえばまだ後部座席のシートベルトの着用が義務付けられていなかったという余計なことも思い出しながら、私の場合は、マクドナルドに連れて行ってもらった帰りの車内で、テイクアウトしたポテトを母の口にも運んでいた記憶が蘇る。

セリーヌ・シアマ監督の『燃ゆる女の肖像』を映画館で観た時、あまりにも圧倒されて、乗って行った自転車を忘れて帰るという失態を犯してしまい、本作も少し緊張して観たけれど、そんな心構えはまるで必要なかった。
静かで、自然で、おとぎ話のような物語。説明的な感じは一切なく、すっと入り込んできた。
もう戻らない子ども時代に思いを馳せて少し寂しい気持ちになりながらも、今はいないあの人も、過ぎ去ってしまった時間も、自分の中からまるっと消えてしまうわけではないのだと、何故かとても安心感を得られた。

悲しみに打ちひしがれ、くたびれてしまったネリーの母親マリオンのことを、大人なんだから、お母さんなんだから、なんて誰も咎めない。
子どもの頃の自分は、母親が疲れているところや泣いているところなんて見たことがなかったように思うけれど、無意識に「親だから」「大人だから」「年上だから」を押しつけてしまっていたのかもしれない。
ネリーとマリオンが対等の関係で過ごす時間が本当に愛おしかった。「今度はないの」という言葉を噛み締める。
九月

九月