このレビューはネタバレを含みます
セリーヌ・シアマというだけで観にいったのであらすじもなにも知らなかったのだけれど、母の背中を映すカットで示される「petite maman」というタイトルから、どういうものがたりかがわかる。観ながら、どうして子どもの母との対話を映画にしたのだろうと考えていた。
いくら仲のいい親子だとしても、母からすればじぶんは「わが子」でしかない。大人になればなるほど、一人の他者としての母の存在に自覚的になるけれど、母も同じ気持ちでいるかどうかはわからない。その非対称性を解消するためには、お互いが子どもとして出会い直すしかないのだろうと思う。それができるのはものがたりという装置だけだし、この映画は、その仮定のものがたりに観客が身を委ねることをゆるしてくれる。木々が揺れる音で小さな頃の記憶が蘇るような、そんな感覚にもなった。時々思い返してしまいそうな映画だと思う。