KnightsofOdessa

さよなら、ベルリン またはファビアンの選択についてのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

3.0
[戦間期ドイツを文化的側面から観察してみた] 60点

2021年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。エーリッヒ・ケストナー唯一の大人向け小説の映画化作品。現代の地下鉄駅から長回しで地上に出ると1931年に…!という冒頭では、地上への階段に現代の駅にいた現代風の格好の女性がまだいて、なんだか詰めが甘いなぁと。その後も細切れの映像と過剰なナレーションで紡がれていくので、知ってること全部を早口で捲し立てるオタクの解説でも聴いてるのかと思った(これについてはブーメランが私の頭に刺さってるので反省します)。映像もチャラいし、所々冗長だし、話もふらふらしてるので、マジで帰ろうかと思っていたが、結果的には帰らないで良かった。まぁ過剰なナレーション以外は最後まで解消されないのだが。

本作品は戦間期ドイツの享楽主義、経済低迷、共産主義の興隆とナチスの台頭を文化的側面から観察した作品である。文学部卒で広告代理店に勤める主人公ファビアンは夜な夜な遊び歩いていたが、失業してしまってからはコルネリアとの関係性も逆転してしまう。レッシングの論文を書くボンボン息子の友人ラブーデは政治活動を始めて政府からマークされ、女優を目指す恋人コルネリアも役のために搾取され、間接的ではあるがナチスによって首を絞められていく。"間接的に"潰され、知らない間に周りが敵だらけになっている、この1931年という絶妙な時期の恐ろしさは、ベルンハルト・ヴィッキ『Spider's Web』でも描かれていた。こちらは一人の脆弱な男が、様々な主義の入り乱れるベルリンでナチズムの誕生に加担するというヨーゼフ・ロートの同名小説の映画化作品であり、戦間期ドイツの享楽主義、経済低迷、共産主義の興隆とナチスの台頭を政治的側面から観察した作品として、本作品と相互補完の関係性にあると言える。奇しくもどちらも3時間ある。

これで2021年ベルリン映画祭コンペ部門は全部観終わった。時期的な問題もあり、例年よりも作品を絞った形となったが、作品の質は例年以上だった。一応個人的な受賞結果を書くが、本当の受賞作品がスライドしただけでほとんど変更はなし。

金熊:『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』
審査員グランプリ:『Petite Maman』
銀熊審査員賞:アレクサンドル・コベリゼ(『見上げた空に何が見える?』)
銀熊監督賞:マリア・シュペト(『Mr. Bachmann and His Class』)
銀熊主演賞:マレン・エッゲルト(『アイム・ユア・マン』)
銀熊助演賞:Lilla Kizlinger, Juli Jakab (『Forest - I See You Everywhere』)
銀熊脚本賞:濱口竜介(『偶然と想像』)
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