『ボーがおそれるのもしょうがなかった』
「ヘレディタリー/継承」「ミッドサマー」に続く、アリアスター監督による悪夢。年末年始にインフルエンザで寝込んでいたのですが、ちょうどその時に見た悪夢のような映画でした。
前作がそこそこヒットしたこともあって、おそらく予算があったのだと思いますが、細部にまでこだわりが詰まった、やりたかったことが全部できたのでは、と思えるアリアスター監督の世界でした。
評価は相当分かれそうな作品でしたが、ホラーが苦手な自分にとっては観やすくて楽しめた映画でした。
■ 映画についてと、感想(ネタバレなし)※ネタバレ考察は後半に書きます
映画は、全編通して一人称視点での冒険を描くピカレスク形式のブラック・コメディ。ストーリーは、ホアキン・フェニックス演じるボーが、離れて暮らしていた母親の葬儀に向かうという、ただそれだけの話です。
2011年に監督が制作した7分間のショートフィルム「Beau」がベースとのことでしたが、飛行機に乗り遅れたり鍵が無くなったりというところは同じでしたが、黒人主人公とユダヤ系主人公という違いも大きいので、全く別物という感じです。
(ショートフィルムで主人公を演じた方がすでに亡くなっていることから、書き換えたそう)
映画は3時間という長さでしたが、映画のジャンルすら異なるような全く世界観が異なる4つのパートに分かれており、その都度大きく場面転換するので、飽きずに観ることが出来ました。(と同時に、試写の感想がバラバラだった理由も分かりました)
ただ、やっぱり3時間はしんどかったですね。早く終わってくれっていう苦痛ではなく、情報量がとにかく多すぎてしんどいっていう感じのキツさで「スパイダーバース」を観たときと同じような疲労感がありました。
『劇中劇』や『夢の中の夢』が混じった不思議感満載の映画ではありましたが、「ミッドサマー」の絵がそうであったように、この映画も序盤から随所に答えは提示されていて、意外に分かりやすかったです。
とはいえ面白かったかと言われたら、『疲れる映画です』というのが答えでしょうか。。
ただ、それも予想の範囲で、そもそもハードルを下げて観たからか、結構楽しめた作品でした。
以下、初見の感想だけなので間違っている部分もあるかと思いますが、ネタバレの感想と考察を書きたいと思います。
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(以下、手元メモをまとめきれてないので、乱文ですいません。)
まずは、映画を構成する4つのパートから。
□ (1)スラム街(ボーの自宅)
・ジャンル:コメディ・パニックホラー
・似てる映画:マーティン・スコセッシの「アフター・アワーズ」
・「マッドマックス」のような世紀末感のスラム街でしたが、セラピストから飲まされていた変な薬の影響だった可能性もあると思っています
・なお、最後まで登場する初恋の相手エレインは、早々にポラロイド写真に登場しています
□ (2)治療名目で監禁される家
・ジャンル:スリラー・ホラー
・似てる映画:「Run」、「ゲット・アウト」
・車ではねたボーを病院に連れて行かずに自宅で治療する時点で異常。一見優しそうな家の主は薬で家族を支配している不気味な人物でした
□ (3)不思議な森
・ジャンル:哲学・アート
・似てる映画:「ミッドサマー」、「オオカミの家」
・家から逃れたボーが逃げ込んだ森はヒッピーたちが劇団として暮らす不思議世界。『劇中劇』として、ボーの人生が演じられていました
・このパートはアリアスター監督が「オオカミの家」を制作したチリの二人組に発注した不思議なアニメ映像
□ (4)母の豪邸(ボーの実家)
・ジャンル:ファンタジー?
・やっと辿り着くも、既に終わっていた母の葬儀
・再会した初恋の女性エレインとセックス(あれはボカシを入れざるを得ないわなー)
・飾ってある写真に、(1)~(3)の世界で登場した主要な登場人物が写っており、全ては母親が仕組んでいたことが提示されている
・屋根裏部屋に監禁されていたのは男性は兄弟?(あなたには兄弟がいるのよ、みたいなことを母親が言っていた)
・巨大なチ◯コの怪物は、母親から聞かされていた父親のイメージによって作られた幻想(とでも考えないとしょうがない。ネタとしてはスベってたと思いますが・・😅)
という感じで、まったく異なる世界観でしたが、個人的には森のシーンが好きでした。
■ 考察(1)
シンプルに考えると、息子を監視し続ける毒親の話で、母親によって幼少時代から常に監視し続けられていた可哀想なボーの話ということになるのでしょう。
自分に懐かず帰ってこないボーを自宅に来させるために自身の死を演出し、ユダヤ教の教えに則って、遺体が傷まないうちに行われる葬儀(土葬)に出席せざるを得ないことを利用して連れ戻そうとする。
『落下してきたシャンデリアによって”顔も頭もない”死に方』というのも、遺体がだれか判別できないようにするため。長年の母親からの被害によって神経症を患うボーが通うセラピストも母親の手のもので、全ては仕組まれた罠でした。
ボーはおそらくなんとか母親のもとから逃げ出したのだと思いますが、実家にあった(おそらく閉じ込められたこともあるだろう)屋根裏部屋を考えると、戻りたくなかったのは当然でしょう。
そんなボーが帰ってこないと見るや、車にはねさせて監視カメラ付きの家に拉致監禁。この家の主も、母親の自宅にあった従業員写真に写っている人物でした。
唯一、森の中のパートに登場する人物はあまり他のパートとリンクしていないように思えたのですが、これはチリの二人組た作ったパートをあとから無理やりはめ込んだから、みたいな裏話があるのかもしれません(勝手な想像ですが・・)
ちょっとしっくり来なかったのは、ボーの初恋の相手であるエレインの存在。
子供時代に息子とキスをしただけで息子の元から消されたエレイン。しかし、ボーが監禁された家の娘さんのPCで母親の死亡ニュースを検索した際に、母の死を悼む従業員としてインタビューを受けている彼女の映像が流れており、おそらく母親が従業員として手元において監視していたと思われます。
ただ、そもそも母親は死んでないわけで、あのニュース映像もフェイクだとすると、あの映像の意味がよく分からず。
また、母親から『セックスすると死ぬ』と聞かされていたボーの童貞を奪ったエレインが騎乗位でいたしているところを殺される(多分)のはしょうがないとしても、あそこまで用意周到な母親にしてはエレインはコントロール出来てなかったですね。
あと、森のパートに出てきた父親的な男性がどういう人物だったのかや、母親の身代わりとなって死んだメイドのマーサの登場も唐突感があるままで、まだなにか見落としている情報がありそうだと思っています。
■ 考察(2)
もうひとつ気になったのは、特に終盤、異常な母親に対して、ボーがまともな人物であることが分かるところ。
母親の遺体を見た時に母親ではないと気づくところや、最後の衆人裁判で語られるボーの異常性(自分の友だちに母親の下着を見せるなど)は男の子として普通の行動で、何ら異常なものではありませんでした。
また、気になったのは、母親の葬式の映像で流れていた『モナ・ワッサーマン(母親)はリスを恐れていた人でした』という唐突な語り。
リスは『狂人』のメタファーで、せわしなく異常な行動をするもの。つまり、母親は息子ボーを『異常なもの』として遠ざけていたのではないか、と見たらどうなのかと考えました。
映画のオープニングはボーの出産シーンでしたが、母親が医師に対して子供を落としたと騒いでいるシーンから始まっており、自身が経営する会社のポスターに起用した息子の横には”発達障害にも効果がある”的な内容で、母親は息子は発達障害だと考えていたのではないかと思います。
小さい頃は良かったものの、自分にも懐かないボーに嫌気が差し、逆に遠ざけたくなった。そこで、あのスラム街に家を与えてそこに押し込め、自分の部下にセラピストとして監視させるとともに、定期的に薬を与えていた。(セラピストの薬を飲まなくなった後半はまともでしたよね)
自分の邸宅に帰ってきた息子ボーに対して『あなたが帰ってくると聞いて焦った』という趣旨の発言もありました。
帰ってこないはずの息子が帰ってくる。
帰ってきてほしくない。だから寝不足にさせて飛行機に乗り遅れさせる(従業員の写真に、スラム街の悪党の写真もありました)、クレジットカードを無効にする、毒グモで殺そうとする。それでも逃げたら従業員の手下に車で轢かせて拉致する。
家の家主は治療と称してして拉致監禁してボーを監視下に置く、なんだかんだ言ってボーを実家に帰らせない。(ボーの監視役だった娘は失態によりペンキを飲んで自殺)それでも逃げたボーを隣家の狂人に追跡させて殺そうとする。
この場合、なぜそもそも帰ってこいと言ったのかということになりますが、まだ読み解けていない、母親が言っていた『あなたには兄弟がいるのよ』的なセリフと、ラストの屋根裏部屋で監禁されていた男性の存在が関係しているかもしれません。。。
ということで、まとまってないですが、現状としてはここまで。
さすがに考察(2)は乱暴すぎるとは思いますが、アリアスター監督の難解さを考えると、ついつい裏読みしてしまいますね。。
ただ、すぐにもう一回劇場で見ようとは思わないので、皆さんの考察を楽しみにしたいと思います。
あと、パンフは買ったもののまだ読んでいないので、あまりに逸脱している内容があれば、訂正するかもしれません。(個人の感想でもあるので、基本はそのままですが・・・)
ではでは乱文失礼しました。