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ゴッドランド/GODLANDのfujisanのレビュー・感想・評価

ゴッドランド/GODLAND(2022年製作の映画)
3.6
アイスランドの雄大な自然と、ちっぽけな人間

2022年カンヌでのプレミア公開から、数々の映画賞を経てアカデミー賞国際長編映画賞のアイスランド代表作品となった映画。

19世紀、当時デンマークの植民地だったアイスランドの辺境の地へ布教のために派遣されたデンマーク人牧師が、アイスランドのむき出しの厳しい自然に極限まで追い込まれることによって、彼の内に秘めていた狂気が露わになっていく。

もともとは過酷な地に命がけで布教に赴く感動ストーリーなのかと思っていたのですが、雄大な自然の中で醜悪な人間のエゴ同士が衝突する、異国文化間コミュニケーションの難しさが描かれた作品でした。



アイスランドは北極圏に近い、北海道と四国を足したぐらいの小さな島。活火山を含め130火山を有する『火山の国』で、現在も多くの土地は手つかずの自然が残っているようです。

9世紀ごろからバイキングが移り住んでいたものの、その後13世紀にノルウェーの支配を経て、14世紀にデンマークの支配下に。独立したのは第二次大戦後の1944年ですから、結構最近ですよね。

北欧神話とバイキングを題材にした映画「ノースマン」はちょうど9世紀にバイキングが島に移り住んだ時代、厳しい自然の中で農場を経営するバイキングが描かれていましたが、19世紀の本作と景色が大きく変わらないところにここで生きていく厳しさを感じます。

もともとはバイキングの国なので、宗教としては北欧神話(北欧信仰)。自然と神話の融合という意味では八百万の神を信仰する日本と近い宗教文化だったはずですが、キリスト教の波は北欧も飲み込み、今では他の北欧の国と同じくキリスト教(プロテスタント)が主要な宗教。

本作はそんな19世紀のキリスト教布教活動がベースになっているわけですが、本作を見て、アイスランドに生まれ育った人たちは、キリスト教は信じるけれど、アイスランドの厳しく雄大な自然そのものが大きな神なのだと信じているように思えました。

映画では、支配するもの(デンマーク人)で神のように振る舞うデンマーク人の牧師ルーカスと、神はアイスランドの自然そのものであると信じるアイスランド人とのコミュニケーションのズレを通じて、異国間で分かり合う難しさと重要性を伝えようとしていたのだと思います。



本作のフリーヌル・パルマソン監督はアイスランド生まれでデンマーク育ちということで、両国の微妙な歴史関係を経験してきた方らしく、難しいテーマが見事に描かれていました。

また、テーマがテーマだけに陰湿で暗いムードになりがちですが、4:3で角が丸く、飛行機の窓のような形に切り取られた映像はどこか紙芝居的で、時おり皮肉が効いたユーモアを混じえた展開もあって、不思議に最後まで楽しめる映画でもありました。

アイスランドのむき出しで雄大な自然が奏でる音のみを劇伴とし、時おりインサートされる、神の視点のような俯瞰映像によって、アイスランドの雄大な地球規模の雄大な自然と、ただただちっぽけな男たちのコントラストが印象に残る映像。

日本では電線などの映り込みで時代劇を取るのが難しいといいますが、アイスランドには未だ手つかず自然が残っており、おそらく都市部以外の風景は、現代でも映画の風景とそんなに変わらないはず。
そう言う意味では、アイスランド旅行の気分が味わえる貴重な映画かもしれません。

評価を3.6としたのは、さすがに140分は長すぎるかな、というところと、ほぼ半分ずつになっている『旅パート』と『人間関係こじらせパート』、2つ大きなテーマが盛り込まれ、前半と後半で好みが分かれそうなところ。(個人的には前半が好きでした)

ただ、良い意味で貴重で珍しい映画だと思うので、劇場の大きなスクリーンで観ておいて損はない映画だと思います。(当日滑り込みで最前列で観たこともあって、自然の迫力に圧倒されました・・・)
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