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茜色に焼かれるのbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

茜色に焼かれる(2021年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

ギリギリの暮らしを送る母と息子が、それでも「生きる価値」を見出して懸命にもがく映画。

もうずっとひたすら胸糞展開なので、観ていてかなり辛い。ただ、主人公である良子役の尾野真千子の凛とした佇まいが素晴らしく、彼女を観ているだけで画面から目が離せなくなった。息子役と風俗嬢のケイ役は二人とも微妙に滑舌が悪く演技が素人くさいのだが、観続けていくとそれが逆に功を奏していると思った。不安定さや危うさ、そして優しさが彼らの演技によって表現されていたと思う。

オダギリジョー出演作だと思って観始めたら冒頭でいきなり死んだので残念ではあったが、親子の心に強烈に残り続ける存在としてやはり適役だったと思う。永瀬正敏も少ない出番ながら圧倒的な存在感。あと個人的にはパート先の嫌な男を演じた笠原秀幸が素晴らしかった。

夫を交通事故で亡くし、轢いた相手は元官僚だとかでお咎めなしで謝罪もなし、息子を養うためにパートと風俗を掛け持ちするが、パート先では嫌な目にあって首にされ、好きになった男には弄ばれ、放火されて団地を追い出され、本当に散々。息子はイジメにあうし。どこか感情を失ったように日々を生きる良子だが、それでも彼女にはケイという友だちができ、辛い心情を吐露できるようになった。

良子を弄んだ男を、息子とケイたちがボコボコにする終盤のシーンが大好き。良子の鬱屈した想い、これまで耐え忍んできた想いを、彼女自身ではなく周囲の人間が代わりに表現してくれたのだ。彼女の代わりに心から怒ってくれたのだ。そうして良子は、彼らの愛を真正面から受け取り、ようやく心から嬉しそうに笑って、自分のやりたいことをやり、前を向いて進んでいく。

やっぱり人は本当に一人では生きていけない、誰かを愛し愛されることを実感して、やっと生きる価値を見いだせるものなのかも知れない、などと考えさせられた。重く苦しいが、良い映画だった。
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