takanoひねもすのたり

ヘカテ デジタルリマスター版のtakanoひねもすのたりのレビュー・感想・評価

3.4
『愛はそれ自体、ひとつの錯誤である』
ダニエル・シュミット監督。

この映画を一言で表すなら、監督のこの言葉そのまま。

大使館主催の豪華絢爛なパーティーで、ふと物思いにふける外交官のジュリアン(ベルナール・ジロドー)
彼は昔の赴任先の北アフリカで出会ったアメリカ人の人妻クロチルド(ローレン・ハットン)とパーティーで出会い、ひとときの戯れの筈が彼女に嵌まり込み独占欲と嫉妬に囚われた日々に思いを馳せていた。

男の想うような女を演じてみせるけれど、心の内は明かさない、体は重ねるけれど、本心までは開かない、行動は止めらない、気ままで自由な彼女に、段々狂わされていくジュリアン。

赴任先で外交官の傲慢さを隠さず現地人と必要最低限しか関わらず、地元の子供達を『汚い』と言い捨てるジュリアンより、彼等とわけへだけなく対等に人付き合いをしていたクロチルドのほうが精神的に先進的で、それもまた彼を苛立たせた要素のひとつ。

快楽だけの共有。
そもそもクロチルドがひとりだけここにいる理由は?夫はどうした?
(終盤に答え合わせがあります)

映画の下敷きになった小説『ヘカテの犬たち』は未読ですが、ヘカテはギリシャ神話に登場する女神。ギリシャ神話というと主神ゼウスからして不倫も寝取りもやらかしているので貞操観念云々言っても「お前が言うな」ですがw
その中でヘカテは未婚の女神です。
つまり配偶神を持たない神で夫も子供もいない。

配偶者を持たない(いても彼を赴任先へ追うことはしなかった)子供も持たない(替わりに地元の子供達と交流していた)クロチルド。

ファム・ファタールな彼女はともかく、彼女に影響を与えられず苛立ちヒートアップしていくジュリアンに、
お前、いい加減に仕事しろよ……とそれが気になって気になって(出社したの2回くらいしか映ってない気がする……笑)

正直、物語は監督の冒頭の言葉が全てに集約されているので、個人的に注目していたのはジュリアンが着る服、ファッションでした。
80年代のクリスチャン・ディオール。赴任地がアフリカなので麻?や白のスーツ、着崩したスタイルが多かったですが、後半の冬コート!スーツ!帽子!渋い生地に織りの細かさ!これは素敵スタイル……(しかも足元は軍ブーツ)

あの遠い東の大地へ新たに赴任したジュリアンのシーンだけ、またじっくり観たい。