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⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のスティーブのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
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「目玉」になる前の目玉の親父と復員後の「水木」青年が、因習のはびこる村で殺人事件に巻き込まれるサスペンス。

以下ネタバレ。
戦後日本を舞台にしたバディアニメとして評判に違わぬ出来だったと思う。すでにさんざん語られている通り、横溝正史的な舞台設定と、そこに至るまでの導入が見事で、「これはちょっと本腰を入れなくてはなるまい」と鑑賞中に襟を正さざるを得なかったほど。特に戦時中、戦争に突き進んだ国や一部の上級国民から搾取され続けるだけだったことから、戦後は自分も必ずそちら側に回ってやる、という意識の元、上昇志向の強かったはずの水木青年が、戦後もまったく同じく国や一部の上級国民のために大多数が搾取され続けている構造、システムを目の当たりにし、それをぶち壊そうとするクライマックスはカタルシスにあふれていた。タイトルの通り、鬼太郎の誕生にまつわる前日譚にもなっていて、上記の結論に行きついた、ある意味で人間の社会に嫌気が差したはずの水木青年が(記憶は失っているが)、妖怪の鬼太郎を育てていく、という暗示に満ちたラストもすばらしい。余談だが、作画的白眉は中盤のゲゲ郎VS裏鬼道。あのシーン、東映のさるスーパーアニメーターがほぼ一人で描いたとのことだけど(!)、やべえっすねまじで。
惜しむらくは、横溝正史的な舞台と謎で盛り立てたのだから、完全に本格ミステリにしろとは言わないまでも、せめて「あなたは犯人しか知らないはずの現場の状況を知っていた。だからあなたが犯人だ」ぐらいのミステリ的なオチのつけ方が欲しかったかな。
それでも、間違いなく今年の収穫の一つとして挙げられる作品。とてもおもしろかった。