鉄男フーテンの3Dあーてすと

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎の鉄男フーテンの3Dあーてすとのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
4.3
トンネルを超えた先にある村。
忌み地の島。
村独特の風習。
有力者の跡取り問題。
設定だけでロマンが溢れかえっている。
なんだか横溝正史の作品のようだ。

野心的で昇進に執着する、現代なら“人生が変わる”なんてうたい文句の意識高い系のオンラインサロンに入っていそうな主人公。
高度経済成長へ向かう日本で戦地での記憶を抱えながら働くサラリーマン。
設定は、作中の時代に即しているが、描かれる彼の葛藤や(この作品が持つある種の視点を正しいと捉えた場合の)成長は、この作品が現代の人に伝えたいテーマに即していると感じた。
彼の名前が水木さんなのも興味深い。

登場人物それぞれに立場や目的、葛藤と決断があり、それらが揺らぐとき見ている私たちの心に強い感動が生まれる。
そういうシナリオが匠だ。
音楽にも強く心をざわつかされる。

いくつかの要素が絡み合う設定も長い台詞で説明したりせず、好奇心を維持させつつ順を追って理解しやすい情報の散りばめ方も匠だ。

絵柄もTVシリーズの6期の延長線とはいえ時代設定が違うのでより現代風と水木しげる先生の間を上手く探り当てた感じがしてとても好印象。
西洋風の屋上だけちょっと『なんで??』って感じで浮いてたけど、清水の舞台みたいにするとそれはそれで仰々し過ぎたんだろうか??

ただただおもしろかった。
PG12だし保護者と一緒にお子さんも見てくらいの設定と思うけども、子供をナメていない作風がとても好印象。
そして何より、

綺麗事に終始せずに、ある種の悲観も直視した上での綺麗なメッセージは本当の意味で心に刺さる。

いい作品だ。
未見の方は是非劇場で見て欲しい。
初見でタイミングを逃した方も円盤買えとは言わないが、レンタル課金してでも見て欲しい。