ロックウェルアイズ

ノーカントリーのロックウェルアイズのネタバレレビュー・内容・結末

ノーカントリー(2007年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

荒野で狩りをしていたモスはギャングたちの麻薬絡みの抗争の跡を目撃する。
いくつもの死体とともにあったのは200万ドルの大金。
その大金を奪ったことで、ユーモアのない男、アントン・シガーとの死闘が繰り広げられることとなる。

なんといってもハビエル・バルデム演じるアントン・シガーの恐ろしさが際立つ。
目をつけられた者は必ず彼の餌食となり、どんなに逃げても少しずつ、そして確実に近づいてくる。連続殺人犯よりも死神と呼ぶ方が正しいかもしれない。
武器は拳銃ではなく家畜屠殺用の空気銃。
音楽がないのもかなり印象的で、その緊迫感といったら筆舌に尽くしがたい。

どうしてもシガーの凶気性や緊迫感に注目しがちだが、本質はやはりラストにある。
原題の『No Country for Old Men』から分かる通り、モスとシガーのゴタゴタを半ば諦めながら傍観する老保安官ベルの物語だ。
人によってはスッキリしないあのラストはまさにベルが作品全体で醸し出す無力感の象徴的な部分のように感じた。
また、コイントスも大きなキーとなっている。
途中のガソリンスタンドでは表が出たため、シガーは店主に何もせず不可解な男のまま立ち去っていった。
シガーは行動規定を定めている、言うなれば殺人マシーン。
しかしラストではモスの妻カーラはシガー本人に選択させる。
それでもカーラを恐らく殺害したところを見れば、本当の意味でのシガーの凶気を感じることができるのではないか。
その直後の交通事故もシガーの人間味が表れ、殺人マシーンではなく1人の人間であることを実感できる描写としてとても巧い。

実はこの作品をちゃんと認知したのはチェンソーマンでのOPオマージュを知ってから。鑑賞前は何のシーンか全く分からなかったけどなるほどね。随分面白いところを。
あそこだけじゃなくウェルズのボスがいる社長室みたいなところもどことなく見覚えのあるようなないような。
それはともかく、衝撃的な映画であると同時にかなり深い映画であった。