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全員切腹の8637のレビュー・感想・評価

全員切腹(2021年製作の映画)
3.8
「諸々の罪穢祓い禊て清々し 狼蘇山より疫病退散の果て 野辺送る道」...
もう之を聞くのは三回目だ。言葉を覚えてしまった。

このあっけなく過ぎ去った二十六分に、何を学べるかが試練。汲み取れなければいざ切腹。あの宣言と返り血は、一生忘れない。もしかすると、窪塚洋介を観る映画と意図されたかもしれない。眼力がやばい。だが兎に角問うべきは、芋生悠が芋生悠である理由であった。今回も相変わらず劇場は揺れんばかりだった...!

コロナ禍という一つの時代の括りにおいて、「破壊の日」が如何にエンタメだったか。それを考えた時、今作は何かが物足りないかもしれない。しかし豊田監督の逮捕から始まった反骨的なアンサームービーは、遂に切腹の域にまで達したのだ。二年間で物語の練度も上がっている。

舞台は当然浮世。人斬りを生業とする武士が目の前に立っている怖さとか、考えた事なかった。人はそりゃ皆仲良く同じな訳ないんだから、信仰する対象もカネの見方も違う。その垣根を越えるために、クライマックスで用意された言葉。今回ばかりは、言葉で思いを直接観客に伝える映画な感覚があった。だがそれも良い。そのアドレナリンはラストで言葉を超越して死ぬ。間違いなく首にはまだ活きがあった。

「狼煙が呼ぶ」「破壊の日」は今でも世界中で度々上映され、北米ではDVD発売が決定しているらしい。些か羨ましい噺だ。その予兆の全くない日本では、刮目すべきは劇場しかないのだ。あの魂の込められた台詞を台本という形で一生手にできるのでパンフもオススメ。

毎年一回の豊田監督のこの"発表会"のようなものはいつまで続くのだろう。三部作で留まるようには思えない。こんなに短くて語られる事も少ないのに、いつも安定した面白さがあるのは何故だか。
もし監督が来年も作品を出すのなら、ユーロスペースでマヒトゥ・ザ・ピーポー監督の「i ai」と全面衝突すると思うんだよな。勿論どちらも、今からでも観に行く予定を立てたい。
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