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キリエのうたの8637のレビュー・感想・評価

キリエのうた(2023年製作の映画)
4.0
ドッシリと来て、突き放しつつも見放されず、スクリーンという引力に飽きず目を向けさせられる178分。
気持ち悪い映画。自分の踏み入れられたくないプライベートに侵入される心持ちがする。
エンドロールが終わってもなお終わらず生活が続くのはもはや恐怖だった。
マジで、観客をどうしたいんだろう。
もう思い出したくもない思い出でありつつ、忘れるのが勿体無い映画になった。
誰に対しても不親切な傑作。

チネチッタのLIVEサウンドで観て来たのだが、まず大音響で聴く映画ではないです。マイクも楽器も予想以上にキンキン鳴るし、繋ぎの荒さに気付くだけで利点は多くなかった。そもそも、アイナにあんなに歌わせておいて劇伴とも被せてしまう意地悪さ...
映像の編集だってめちゃくちゃだし、こんなのが岩井"美学"と呼ばれてしまうなんて...と冒頭では悲嘆していたが、やはり引き込まれてしまいました。

孤独だなんてちっぽけな悩みに留まる自分が情けなく思えるよ。
人と関わるが故に避けられない家族社会、集団、しきたりや信教の違い、全てに触れている。
とにかく、人が"気まずい"、"避けたい"としている致命を突きすぎて鬱にしかなれない。ただそれだって、"避けたい"という観客の自己満が安全圏で働いているだけであって、スクリーンの先で葛藤するキリエや夏彦は運命も知らず耐え凌いでいるのである。

震災のシークエンスで目を伏せてしまいそうな事でさえも。その当時のキリエの状況になってみれば、生命が消える事がどんなに怖かったか。
というか、こんなに生々しく3.11を描いた作品も初めてかもな...

とてつもない悲劇モノで演技が光る造りにはなっているが、特に松村北斗に刺さった。頼れるのか頼りないのか分からない、寡黙で孤高でありながら芯の脆さも感じる夏彦だからこそ、感情的になる瞬間に最高に泣きそうになった。
父が一人でBiSHを推していた、そんな息子の身からすると、アイナ・ジ・エンドが自身のキャラクター性のままに躍動したことも、初主演でここまで振り切ったことも良き。振り返ってみればあまりにも岩井俊二のミューズだった。
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