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熱のあとにの8637のレビュー・感想・評価

熱のあとに(2023年製作の映画)
3.8
悪意の塊みたいな映画。誰が悪いとも簡単に断定できないままに堕ちて行く登場人物を見つめ、最終的にはその"不安定さ"を楽しめる。何が起こってもおかしくない非現実な緊迫感が、全て現実。もう、そういうエンタメ。

この映画、橋本愛をどう処理する?
5年半ぶりの主演映画、勿体無いくらいの"感情のなさ"。もちろん周到なものなんだけど、私達の思うような"橋本愛の観たい部分"を魅せた上で残るはただの、死んだ目。
並べて見れば狂った彼女を俯瞰するシュールな瞬間群。と思えば客観は主観に変わり、彼女の動揺を主人公的にも捉える。

それを醸し出すのは間違いなく裏方の力。山本英監督が師とする諏訪敦彦監督・黒沢清監督の作品からも感じられる、単純に見える映像の中の緻密な拘り。自然なショットにこそ意味がある感じ。そしてどう考えても意図されている"顔に光を当てない"こと。
加えて濱口竜介監督的な"テキストをそのまま読むかのようにして思想を伝える"演技術。

でもその上質な雰囲気に呑まれず、そこにはちゃんと"仲野太賀"があったように思う。ぶっきらぼうながらも時に叫び、どんな突飛な行動にも論理性を感じさせる。
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