Ricola

ふるさとのRicolaのレビュー・感想・評価

ふるさと(1983年製作の映画)
3.7
ダム建設のため、なくなってしまう村。
退去前の夏、その村で生まれ育ったおじいさんと近所の少年は気持ちを通わせる、ほっこりするものの切ないストーリーだった。


この作品の大きな特徴の一つは、水の描写が美しいということだろう。
それは川以外の水についてもそうである。
例えば、豆腐屋で水の中から豆腐を取り出すショット。優しい光に照らされて澄んだ綺麗な水の中に豆腐が並んでいる。
また青菜を鍋に入れてグツグツ煮込むショットでも、水の見える面積は狭いが、水が生き生きと見える。

そしてもちろん川の描写は、はっとするほど綺麗である。
流れが急なところは白く、緩やかなところは透明だけど光を反射するので青やら緑やらが混じった色をしている。
川のせせらぎを遠い目で見つめるおじいさんや、川で水遊びをする子どもたちの表情の輝かしさも、水という生命の根源ともいえる存在によるものなのだろう。

子供に戻ったかのような元気になったおじいさんは、近所の少年の千太郎と川釣りなどに出かける。
釣りをしていて魚がかかると、千太郎の表情と獲物の様子が交互に映される。
双方の生の瞬間が余すことなくちゃんと収められていて、ひとつひとつの思い出として、千太郎の心に刻まれているように思われる。

川以外にも、村の豊かな自然に癒やされる。
例えば、青々とした山々。空の境界とのてっぺんの方は少し白いモヤがかかっていて、神秘的だと感じる。
オレンジ色の夕焼けと太陽も圧巻である。
村の守り神のような存在として機能しており、おじいさんと千坊の絆の象徴でもあるようだ。

誰かの人生そのものであり、「生きている」自然。
そんな今ではほとんど失われてしまった貴重な空間にあるそれぞれのいのちを、人物の感情とリンクさせて寄り添うように描かれた作品だった。
Ricola

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