あるバナナ

コーダ あいのうたのあるバナナのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
3.8
【以下とりとめのないチラ裏】
●人間が、人との関わりの中で愛を感じ、他人を信じ、そして努力の果てに自己実現していく様というのは、本当に爽やかなものだ。

●「聾唖」を題材に扱うと、どちらかといえば『聲の形』のように陰湿気味な作品に仕上がりやすいような気がするが、この作品は違う。
家族たちユーモラスなキャラクター性のお陰で。非常にハートフルでユーモラスな雰囲気な包まれている。
うまく言葉では表せないが、「聾唖をどう受け入れるか」ではなく、「聾唖なのはとっくの前提として、それはそれとして家族と自分がどう幸せになるか」が縦軸になっているような感覚がある。

●真面目でしっかり者、家族を愛しているルビーは、まだ高校生だが、目覚ましが聞こえない家族のために家族を起こし、家業の漁船に同乗して働いている。
ルビーは歌が好きだが、特殊な環境に身を置いているが故に社会からの目線に敏感になっており、批判を恐れているため歌うのが怖い。

一方で、聾唖者の家族たちは、社会との関わりこそ深くはないものの、非常にオープンマインドで、性にも奔放。
音の聴こえるルビーよりも振るまいに遠慮がないのは、自己表現の上手さとも言える。

かといって、彼らは自分勝手で社交性のない人間という訳ではない。
母は外と関わることに怯え、兄は同業者からの疎外感を覚えていた。
むしろ彼らは一様に社会での立ち位置に悩んでいたように思える。
だが、少なくとも家族には対しては遠慮がないし、いつも対面でユーモラスに、そして本音で話す。
だからこそ信頼できるし、キャラクターとして愛せる。

ルビーは家族を守るために自己犠牲を続けてきたが、教師の指導で歌う楽しさを強く自覚し、それを家族にぶつけて認めてもらえるようにもなった。

●発表会のとき。ルビーの家族が無音の中、周囲の反応を見ることでルビーの歌の真価を悟るシーンは非常に印象的だった。

●クライマックスに向かうに当たり、自分はこの映画の懐の深さに驚いていた。
試験に臨む以上、合格・不合格は付いて回るものだが、どちらであってもルビーが幸せを掴めることには変わりないと思えたのだ。

合格して家を出ても、不合格で家に残っても または合格した上で家に残っても、どの結末でも「そうするのは分かる」と思える説得力があった。
あの家族なら、どの結末になってもそれを受け止められると思えた。
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