真田ピロシキ

ゆるキャン△の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

ゆるキャン△(2022年製作の映画)
4.3
本来私は実写ドラマから入ってアニメは絵柄が苦手な萌え系で面白いんだけどそこまでハマれてはいなくて、加えて他の美少女アウトドアアニメにいくつか手を出してみたのだけれど金太郎飴のような似たようなのばっかりなのに呆れ果てて、本作を区切りにしてゆるキャンからも距離を置くつもりだった。

それで原作にもない社会人になった主人公達を描くということだったが、事前になでしこの浜松時代の友達綾乃も出ると聞いてたのでキャラを出しただけの同窓会アニメなのかなとも思いほとんど期待もない。しかし予想に反してボーナストラックのような映画ではなくて、皆がしっかり大人に成長していて、高校生の頃のキャラクターは受け継いでいてもそこで停滞はしていない。特に千明。元々野クルの部長で行動力と懐の広さはあった彼女が東京から地元山梨に呼ばれて聞いた時には話が大きすぎるように感じたキャンプ場開発計画に乗り出すのは説得力がある。なでしこは初ソロキャンで姉弟にキャンプの面白さを伝えたように、本作ではベテランキャンパーとしてかつての自分のような新人さんに優しくキャンプの魅力を伝える側になってて、ゆるキャンのテイストがたっぷり味わえる。気になったのは他の4人はそれぞれ分かる進路を取っているが、犬子が小学校教師なのはどこからだろう。妹のチビ犬子がいたからかと思ったが、BDの映像特典から着想を得たものらしい。

TVアニメから何年後の話なのかは、リンが部署を変わっていたり千明が転職していて犬子が教師なら大卒だろうから25歳くらいにはなっていると思われる。そうした時の流れを言葉を用いず物語っているのが巧みで、特にちくわの遅い歩みに表れる余白は素晴らしい。またキャラクターの特徴は色々あるが、犬子のお馴染み台詞「嘘やで」が非常に情感的な演出をされているのには感心して泣かせるシーンでもないのに少しウルっと。そういう様々なエモさがTV同様に高精緻なアニメーションで彩られる幸福感と言ったら!日の入りで草木が色づくとことか最高よ。聖地巡礼待ったなし。

また「こういうアニメってどうせモエモエな美少女が出てくるだけで内容がないんでしょー?」と思う人もいて大体はそんなもんだと私も思っていますが、本作では閉塞する地方への問題提起やリノベーションによる解決の提案など実写作品でもやりそうなことをエンタメとしてしっかり描いていて良い。地方を離れる若者の事情とそういった若者が戻って地方を盛り上げんとする地方再生への願いも込められてて、初めてドラマでゆるキャンを見た時にこういう地方を描こうとしているところが気に入ったことを思い出した。この物語の厚みがゆるキャンを凡百の美少女アウトドアアニメから頭2つくらい抜きん出ている点で、本作で頭5つくらいになって最早格が違うように感じられる。これを見てもなお「何も考えずに楽しめる良いアニメ」とか言って作品を侮辱する輩はキャンプファイヤーに放り込んで山の神の生贄にしてくれる!

気になった点は皆がそれなりに歳を重ねた雰囲気をしてるのに、リンの母だけは相変わらず若すぎて下手すれば社会人になった娘と同年代に見える。普通に考えて50歳くらいでしょ?リサリサ先生なのか?それと皆が仕事にキラキラしすぎてて、5人もいて色んな進路を辿っているなら1人くらいは釣りバカ日誌の浜ちゃんみたく仕事はそこそこに人生を楽しむ派がいても多様なスタイルを表現できたと思うな。特にリンはブラック企業に取り込まれかねない危うさがある。適度に手を抜くことも大事と思うよ。

しかし良い映画です。TVシリーズやドラマが気に入った人なら楽しめるでしょう。見る前はこれで終わりにするつもりだったのに、今はさらに続きを見せてほしいという気持ちになった。もっと歳を重ねた彼女らが外見的にも相応に変化させることができたなら、本作は美少女萌えアニメの枠を飛び越える。このスタッフならそれだけの力を持ってると思う。