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女と男のいる舗道のTnTのレビュー・感想・評価

女と男のいる舗道(1962年製作の映画)
3.6
アンナ・カリーナが美しい。画面を占めるのはほぼ彼女の顔である。右から左から正面からとゴダールの彼女に対する目線は止まらない。しかしその目線はあくまでも男からのものであり、切れない性別による違いにとても苦しんでいるように見える。この映画はタイトルが"女"と"男"と区別されているように、娼婦と男達の物語なのだ。

それでいてラストも悲劇的なのだが、彼女には自分が不幸なのかどうかわからない節がある。12の章分けされたストーリーはブツッと終わり、描かれる内容の中身はまるで日記のように端的で些細なことだ。その日々はドライなタッチで描かれている。そして彼女自身いつも軽やかな身のこなしである。日々をそつなくこなしていく姿は人間そのものであった。映画によくあるドラマチックな悲劇などなく、日々における些細な出来事なのだ。今作でアンナが映画館で「裁かるるジャンヌ」を観るシーンがあるのだが、このシーンのみ彼女は涙する。このシーンがあることで、彼女の中にある悲劇がジャンヌとシンクロする。アンナの中にある悲劇がここで裏打ちされているように思える。

印象的だったのはアンナ・カリーナのダンスシーン。彼女は明るく前作にも似た印象的なダンスをする。しかし、その周りにいる男達は踊らない。男達は話をしたりビリヤードをしたり…。アンナ・カリーナは目線で誘うも一緒に踊る者はいない。何かで読んだが、ゴダールはアンナ・カリーナと別れた理由に「彼女と一緒に踊ることができなかったからだ」と述べていたらしい。この男女の問題をずっとゴダールは引きずっていく。このシーンも明るい分むしろ悲劇的だ。アンナが明るく振る舞うほど、その裏の悲劇が否応なくさらされる。あの孤独なダンスを私達はただ見つめるしかないのだ。

北野武が自作でよく主人公を自殺させているが、ゴダールも同じように妻であるアンナ・カリーナを殺す描写をしている。強迫観念にも似た彼女を失う、殺してしまう恐怖がまるでそのまま作品になってしまうような。彼が生涯忘れられない女性としてアンナをあつかっていたのは最新作「イメージの本」でアンナ・カリーナ初出演の「小さな兵隊」のワンシーンを引用していることからもわかる。そんな偉大な女優もついに亡くなってしまった。だからかわからないが、ものすごく切ない映画だった。
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