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親愛なる君への教授のレビュー・感想・評価

親愛なる君へ(2020年製作の映画)
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この映画の中に映し出される主人公ジェンイー(モー・ズーイー)の善良さから生まれる優しさすらグレーゾーンに位置する救いのなさに対して、安易な正しさや善悪をジャッジしない作劇が僕はとても信じられると思えた。

物語について、流れるように説明は施されず、やや混乱気味な時系列の並び方も含めて、映し出される登場人物のそれぞれの想いの至り方、抱えている正しさと、残酷なまでの中途半端さが、しっかりとリアリティを持って描き出すことに徹している。
それ故にだが地味な映画にも見えるがとても味わい深い。

一番印象的なのは「罪を着せられる」と詮索をされ暴かれていくことが、すべてその「罪状」に重ねられていくことの恐ろしさ。
ジェンイーは死んだ同性のパートナーへの死の責任や、その息子のヨウユーから母親を奪った罪悪感からヨウユーとその祖母の面倒を見ている。
しかし寂しさにも耐えられないからこそマッチングアプリでいわゆる「セフレ」的な存在がいる。そのセックスシーンの呻くような切なさと溢れる寂しさがリアルでとても良かった。

現実があまりに寂しくて苦しい。人は老いるし、愛する人との時間もまた限られているし、家族ですら所詮は他人。誰もが上手く理解し合えることも幻想でしかない。
物語の中には、世界中に蔓延する格差も分断も、アイデンティティに対する差別も偏見も剥き出しのまま転がっていて、疑念が自分を追い詰めてくる。

一緒に観た知人の言葉を借りると「一般的な映画のカタルシスはなく、現実そのもの」が容赦なく映し出されている。
それでも拙く自然に、気持ちや想いが溢れて生まれた楽曲に集約されたジェンイーとヨウユーの「共作」によって美しい人との繋がりが物語によって救済されたこと。
だからとても良い映画を観たという気持ちにさせられた。
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