ヨーク

囚人ディリのヨークのレビュー・感想・評価

囚人ディリ(2019年製作の映画)
3.7
割と久々にインド映画を観たような気がするのだけど面白かったですよ。
この日は実は『アイの歌を聴かせて』を観ようと思っていたんだけどまさかの完売。面白いらしいとの評判は聞いているけどお客入ってるんですねー。まぁそれはいいことなんだけど、そのおかげで映画難民になった俺は上映開始時間が10分くらいズレていたこの『囚人ディリ』を観ることになったのである。
ざっくりとした感想としては最初に書いたように面白かったのだが、なんか思ってたよりもちゃんとしているというかそれほどハジケていない映画ではあったなと思う。皆さんのインド映画のイメージがどうなのかは知らないけれど、ハジケ度でいえば本作はそこまでではない感じ。陽気な音楽が鳴り始めたらどんな超常現象でも「そういうもんだから」で済ましてしまうほどのパワープレイはない。ただ本作もインド映画にありがちな145分の長尺作品で、それさっきもやっただろっていうのを何度も重ねていくというこれでもかというほどのクドさのある作品なのでその辺はTHE・インド映画という感じでもある。もっとスリムにまとめられるだろ! と思ってしまうのだが主人公の格好いいところは何度でも見せるし悪役の悪いところも何度でも見せる。そういう濃い味付けの作劇っていうのはやっぱインド映画観てるなぁ感があって良かったですね。
お話は麻薬組織と警察の抗争に主人公のディリが不本意ながら巻き込まれていくというものなんだけど、その主人公のディリが釈放間際の囚人で釈放されればシャバにいる娘に会いに行こうと思ってた子煩悩パパなんですね。ちなみにディリは囚人なんだがそこは主役なので家族を強盗から守るために戦ったら強盗を殺しちゃって過剰防衛になったとかそんな感じだったと思う。
お話は中々凝っていて、簡単に説明すると上記の通りなのだが警察側と麻薬組織側にそれぞれスパイが潜伏しているという『インファナル・アフェア』状態だったり、警察側は田舎の警察署に麻薬を押収して麻薬組織のトップも収監している状態なのだが麻薬組織側に毒を盛られてほとんどの警察官が朝までに病院に連れ込まなきゃ命が危ないという状況もあり色々と込み入った状況になっている。ディリはその毒を盛られた警察関係者を病院に運ぶためにトラックを運転することになるんだけどそこに麻薬組織の追手が…という感じですね。
その辺はタイムリミットが迫るサスペンス的なところも敵と戦うアクション要素も上手く取り込まれていて無難に面白い仕上がりにはなっているのだが最初に書いたように何だか小綺麗にまとまっている感じでダイナミックな面白さはあんまりないんですよね。ここ勘違いはしないでほしいんだが別に本作がつまんないわけでは全然なくて、インド映画にありがちなぶっ飛んだ演出とかはあんまりないんですよ。その辺はまぁ痛し痒しというか、面白いんだけどもっと変な映画を観たかったなというところではある。
ただラストの展開は超面白かったな。この程度はネタバレにならない、というかむしろ本作を観たくなるんじゃないだろうかと思うから書いてしまうが、本作の終盤で主人公はシヴァ神の加護を得てガトリングガンをぶっ放します。まぁ最後だけじゃなくてディリは基本的に全編に於いて信心深くて、それは本作が持つ保守的かつ無難でバランス感覚のよい部分を象徴するような要素でもあるのだが、最後にきてそれがガトリングガンぶっ放しという形で解放されるのはいいカタルシスでしたね。多分その辺も上手く計算している映画なのだと思うが。
しかしインド映画ならディリの額に第3の目が開いてそこからビームが発射されてもそれほど驚きはしないので、ガトリングガンをぶっ放すだけで済んでいるのはやはり穏当というか、かなり現実的な演出のラインであろう。
そういう風に宗教を一枚噛ませた上での倫理描写だとか人情ものな部分だとかが上手く落とし込まれていて普通に面白いよく出来た映画でした。お話はややシリアス目なトーンで描かれるためか、歌とダンスがなかったのがちょっと消化不良感はあるけれど面白かったですね。
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