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復讐者たちのodyssのレビュー・感想・評価

復讐者たち(2020年製作の映画)
3.5
【もう一つの問題】

第二次世界大戦が終わった直後のドイツで、ユダヤ人がドイツ人に復讐しようとした、という実話をもとにした映画。

ここでは二つの復讐が出てきます。

まず、英国軍のユダヤ人部隊(ってのがあったんですね!)が、ナチ親衛隊員を捕まえて殺していた。
ナチ親衛隊といえばユダヤ人殺戮(いわゆるホロコースト)の元凶みたいな存在だから、復讐されても仕方ないとも言えますが、でも最近の研究では悪いのは彼らだけじゃなく、一般の軍人(ドイツ国防軍)や一般人も、ってことになっているみたい。
要するに、ナチ時代のドイツは一部の良心的な人は除いて、反ユダヤ主義に染まっていた、ってことなんですね。

もう一つの復讐は、ドイツ人に対する無差別報復。
こちらが本作品のメインなんですけど、ネタばれになるといけないので、あとは実際にこの映画を見て下さい。

でも、復讐とは何かという哲学的な問題もこの映画の主題ではあるのだな。
ドイツ人を殺すことが復讐か(マイナス思考)、それとも、戦後の世界で良く生きることが復讐か(プラス思考)、ってこと。

でも、後者を選ぶとイスラエル建国を支持して・・・って話にしかならない。
でもそれは、パレスチナ人への抑圧、という別のマイナスを喚起する行為でもあった。

その辺が、この映画には描かれていない。
さすが、イスラエル人監督で、ドイツとイスラエルの合作映画だけのことはあるな、と思ってしまいました。
戦後の(西)ドイツはホロコーストの負い目があるから、基本、イスラエルの政策を追認してきた。

新型コロナ感染、二度目の東京オリンピックが一年遅れで開催されましたが、1972年のミュンヘン・オリンピックでテロが起こったことを、60歳以上の日本人は記憶しているでしょう。
パレスチナのテロリストが、ミュンヘン・オリンピックに出場していたユダヤ人アスリートを狙って、実際11人のユダヤ人を殺した事件です。
敢えてドイツでのオリンピックを狙ってこういう行為に出たパレスチナ・テロリスト。
つまり、ホロコーストとイスラエル建国がパレスチナ人抑圧につながったから、という論理ですね。

そうした歴史を知っている身には、この映画はたしかに「ホロコースト、そしてそれに対する対処」という深刻な問題をふまえているには違いないけど、反面のもう一つの問題は放棄しているな、としか思えませんでした。
今現在の世界で深刻な問題であり続けているのは、パレスチナのほうなんですけどね。
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