ホロコーストの史実に基づいた作品を続けて。
1945年、終戦後のドイツ。アウシュヴィッツから生き残ったマックス(アウグスト・ディール)は収容所で離れ離れになった妻子を探していた。その道中、ナチスの残党狩りをしているイギリス軍ユダヤ人旅団のミハイル(マイケル・アローニ)と出会う。立ち寄った難民キャンプで妻子が亡くなったことを知ったマックスは復讐心からミハイルたちの仲間となるが、さらに過激な報復活動を行うユダヤ人団体「ナカム」の存在を知る。
ナチスによるユダヤ人大量虐殺のあと、まさかユダヤ人によるドイツ人への復讐作戦が進められていたとは。恥ずかしながら全く知りませんでした…。
原題『Plan A』はまさにナカムが実行しようとしていた水道への毒物投与によるドイツ人への無差別復讐作戦そのものを指す。
ストーリー自体は終戦後の物語だけど、やはりドイツ人からのユダヤ人への風当たりは厳しい。
冒頭からマックスの家族はドイツ人による密告によりナチスに囚われアウシュヴィッツへ送られたことが想像できる。
"終戦でユダヤ人が安泰だと思うなよ"
故郷もなく彷徨うマックスに突き付けられる妻子が収容所で殺されたという事実。
"もし自分の子どもが殺されたら?"
"自問してくれ"
復讐に燃えるマックスが共鳴したミカイルはナチスの残党を次々と処刑しながら、彼の理想を口にする。
"我々ユダヤ人の国ができるかもしれない。追われず迫害もされない安住の地が"
歴史上苦しんできたユダヤ人たちは安寧の地が欲しかっただけなのかもしれない。
無差別殺人を防ぐために過激な報復組織ナカムへ潜入したはずのマックスであったが、アウシュヴィッツで行動を起こさなかったという後悔と、ナカムのアンナ(シルヴィア・フークス)が抱える悲しみはマックスの復讐心をより大きく燃え上がらせる。
"何故自分は何もしなかったのか"
"もう殺される羊はごめんだ"
"600万人には600万人を"
復讐で痛みが消えるのか。誰のための復讐なのか。もし自分の子どもが殺されたら?
主演のアウグスト・ディールの悲しみと怒りを携えた狂気のような演技は圧巻。心優しい夫であり父親であった男が何故無差別殺人に加担しようとしたのか。そして何故最後にあの選択に辿り着いたのか。
"少しの希望があれば人はなんだってする"
マックスは暴力による解決ではなく、希望が人に与える力を始めから知っていたのかもしれないな。
史実に基づいた比較的地味な作品ではあるものの、スリリングさと生々しさを兼ね備えた良作でした。