いしはらしんすけ

東京クルドのいしはらしんすけのレビュー・感想・評価

東京クルド(2021年製作の映画)
3.9
難民申請が通らず仮放免という立場で日本(タイトルは東京だけどおそらく埼玉)で暮らすクルド人コミュニティを捉えたドキュメンタリー。

ウィシュマさんの事件で今まさに議論になっている入管法問題がメインテーマになってるだけに公開タイミングはタイムリーと言えるが、本作は2010年代後半の約5年に亘って撮影されていて、この問題が常に存在し続けていたことを改めて突きつけてくる。

この手の政治イシュードキュメンタリーはそのガワだけで観客を選ぶのかもしれんが、この映画は意外にもと言うべきか、嗜好性を超えて広く観られる属性を持っています。

その要因として最も大きいのはやはりラマザンとオザンという、キャラクター的に好対照なハイティーンの二人を主役的に描いていること。

幼少期に戦乱のトルコから家族で日本に逃れ、ほぼ日本で育ったこの二人の苦悩は、彼らの置かれた環境ゆえの特殊なものがある一方、ある種どこにでもある普遍的な青年期の屈託もあって、いろんな角度で胸を衝かれるんですわ。

私的には逆境にも屈せず強い意志で確固たる目標を持ち続ける家族愛に溢れたラマザンより、無気力に流され家庭に居場所がないやさぐれたオザンに圧倒的に共感。ああいうギクシャクした父子関係にはやっぱいろいろ重ねてしまうのよねぇ...

そんな二人の友情が端的に示された、ラマザンがオザンを励まし、さりげなく鼓舞するシーンには当然落涙。

ここも含めてまったく虚飾のないドキュメントでありながら随所にドラマ性が横溢していて、特に「推し」のオザンに関してはその俳優のようなイケメンぶりもあってか「この後犯罪組織に勧誘され、そこでの擬似家族関係に身を委ねるも結局裏切られて...」などとついスコセッシラインの妄想が暴走。

しかし映像のない入管内での所員との生々しいやり取りは、残酷すぎる現実を直截的に活写。思わず「てめえらの血は何色だーーっ!」と心の中で世紀末救世主伝説が始まりそうになりました。

余計なナレーションが排され、字幕も最小限に抑えられているのも好印象。まあもうちょっと入管法に関する説明があった方が親切ではあるんだろうけど、それは観た人が自主的に調べればいいんで。

何よりそのストロングスタイルが顕著に示された無言のラストで、映画としてのカタルシスが爆上がりな訳だしね。

まるでケン・ローチ作品のような後味が確かな啓蒙性を感じさせる、より多く人に観てもらいたい傑作です。