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わたしは最悪。のらのレビュー・感想・評価

わたしは最悪。(2021年製作の映画)
3.7
他人とは違う個性を発揮して自分だけの役割を見つけ、主役として何かを成し遂げなければならないというプレッシャーと葛藤の中でもがき続ける人々への皮肉とささやかな肯定。

選択肢と情報が多すぎてあっちへふらりこっちへふらりと定まらないユリヤの姿は、カリカチュアライズされた現代のリアルなわれわれの人間像そのもの。そして、いくら選択肢が多くとも、決して選択することのできない不条理にぶつかるのが人生というものなのだ。

また、主人公ユリヤの選択は大体間違っていたり、その行動は理解できないものだったりするかもしれないけれど、それで良いではないか。『フランシス・ハ』を観ている時にも思ったが、多少迷惑をかけたり間違ったりしても良い。そういう人に寛容な社会であってほしい。

この映画が描こうとしていることと同様に映画自体も情報量が多く多層的だ。フェミニズムや#MeToo、環境問題、ポリティカルコレクトネスからネットのバズまで、枚挙にいとまがないほど現代的なテーマやモチーフが頻出するため、この作品を語るための切り口は無数にあるだろう。演出もビターだったりチャーミングだったりファンタジックだったりシリアスだったり、シーンごとに多彩なトーンで描き分けられている。そんな中、一貫して薄明るい光を投げかけ続けるオスロの空と街並みが美しい。
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