荒澤龍

わたしは最悪。の荒澤龍のレビュー・感想・評価

わたしは最悪。(2021年製作の映画)
4.2
「あなたは悪くない、私が最悪。という戦略」


ポップなパッケージに惹かれて鑑賞。
パッケージからは、映画「イエスマン」のようなポジティブシンキングで人生を楽しむ!的な印象を受け取ったが、この映画はもっと人間の実質的な部分が描かれており面白かった。

「私は最悪」という言葉は結婚を迫る男性と別れる時に「あなたは悪くない、私が最悪」という台詞で作中に登場する。
別れを渋る相手に対してこの言葉は取りつく島もない。原因は自分にあると言われたら相手は改善のしようがない。
現代は自由の名のもとで選択肢が多く、迷いも増える。だから時には戦略的にこのような言葉で自分以外の考えを切り離し、加速度的に前進することも大切なのかもしれないと思った。

また目まぐるしく変化する現代は、若くスピード感のある成功に憧れてしまう。忍耐の上に成り立つ成功に嫌気がさすのは現代病かもしれない。彼女も医学部に進学していたのにその道を捨ててしまう。昔の優秀で普通のエリートが憧れの時代ではなくなっている。

しかも下積みが長いことは若いうちに遊べないことを意味し、そういった人間は遊びのような恋に本気になってしまうことが多いように思われる。ある程度経験を積んだ人間は、刺激的な恋は一瞬の威力が強いが長期的な関係には向かないことを知っている。だから年齢を重ねると刺激的なものに身をやつすことはない。
今回の女性は刺激的な恋に入り浸り、平凡だが長期的に安定したものを捨ててしまった。

紆余曲折あったが、結果的に満足した表情で映画が締められていたのがよかった。
荒澤龍

荒澤龍