こなつ

コンパートメントNo.6のこなつのレビュー・感想・評価

コンパートメントNo.6(2021年製作の映画)
4.2
日経の「シネマ万華鏡」に本年屈指の収穫というべき秀作と書かれていた作品。映画館が満席で驚いた。

2021年カンヌのコンペティション部門グランプリ受賞。原作は、フィンランドの作家ロサ・リクソムが2011年に発表した同名タイトル。監督はユホ・クオスマネン(フィンランド)

舞台は1990年代のロシア。「コンパートメント No.6」というのは、主人公ラウラがモスクワからひとり2000kmにおよぶ極寒の地ムンマンスクに向かう列車の客室の番号。とても素敵な映画だった。

モスクワにロシア語を学ぶためにフィンランドから留学しているラウラ(セイディ・ハーラ)は、カノゼロのペトログリフを見に行こうとしていた。ペトログリフとは、古代の人々が岩に掘った岩面彫刻で、彼女は考古学を学んでいる学生だった。

客室は4人部屋の2等車。同室になったのは、若いロシア人のリョーハ(ユーリー・ボリソフ)。リョーハは、ムンマンスクの炭鉱へ働きに行く労働者だ。ウォッカを飲んで絡んでくる粗野なリョーハとの出会いは最悪だった。ましてラウラは、恋人の教授イリーナの気持ちが自分から離れていくことに心を傷めていた。

そんな二人を乗せた列車は、途中幾度も停車しながら数日かけて目的地に向かう。インテリと労働者、相容れない関係に見えた二人が、次第に距離を縮めていく。仏頂面だが大人の女性ラウラと、大人であっても不器用で純情さを残した青年リョーハ。孤独な魂が惹き付け合う雪深い北の街での愛の物語。細かい心理描写が丁寧に描かれている。

ムンマンスクのホテルで、カノゼロのペトログリフにはこの季節は行けないと言われ、手立てが見つからなかったラウラを、運転手と車を手配して連れて行ってくれたのがリョーハだった。

テーマ曲のように流れるデザイアレスの「Voyage Voyage」が懐かしい。

多くを語らない物語の流れ、旅の途中ですれ違う人々、偶然の出会いが心に刻まれる小さな瞬間を生む。ユーモアたっぷりな結末に最後まで温かな気持ちにしてくれた素敵な作品だった。
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