fujisan

コンパートメントNo.6のfujisanのレビュー・感想・評価

コンパートメントNo.6(2021年製作の映画)
3.8
『列車の窓から見る人生』

フィンランドの新鋭監督による2023年日本公開のフィンランド・ロシア合作映画で、2021年カンヌ映画祭のグランプリ受賞作。今年劇場で観たかった映画でしたが、ようやくU-NEXT(有料)で視聴。

1990年代、フィンランドからモスクワへ留学しているラウラは恋人と一緒に世界最北端の駅・北極海への入り口と言われているムルマンスクへペトログリフ(岩に掘られた歴史的彫刻)を見に行く予定でした。

ところが、突然恋人からドタキャンされ、ラウラは一人でムルマンスクへ向かうことになります。ムルマンスクへは2000キロを超える3日がかりの列車の旅。そして二人用の個室(コンパートメント)で旅を同居することになったのは、粗野なロシア人男性のリョーハ。

狭い個室内でタバコは吸う、下ネタは言う、むやみに近寄ってくるっていうコミュ障にとっては恐怖の対象でしか無いリョーハ。ラウラは車掌に相談したり、食堂車で時間を潰したりと、嫌で仕方がない同居旅を続けるのですが、次第に不器用でまっすぐなリョーハに惹かれるようになり・・・というお話です。



本作はラウラの視点で描かれており、最初はラウラに同情するのですが、無目的で怠惰なモラトリアムを過ごす留学生ラウラに対して、自分で事業を起こすために最北の街で炭鉱労働をしようとする一見粗野なリョーハのほうが地に足の付いた生活をしており、次第に見る目が変わってきます。

ラウラは北極海に近い岩場にある壁画を見たいと言いますが、それも元々は恋人と一緒に旅行をしたいだけのどうでもいい目的。そんなどうでもいい目的を何とか叶えてあげようとする、朴訥で不器用なリョーハに、観ている方は感情移入していきます。


有名俳優も登場しない地味な作品ですが、流れる車窓の景色を見て物思いにふけり、途中下車する駅で出会う人達も、なんなら眼の前に座っている人も、自分の人生の中で今後二度と会うことはないだろうという、列車旅独特の一期一会の旅情が感じられる素晴らしい作品でした。

また、ネタバレになるので詳しくは書きませんが、途中、観ている人の固定観念によってミスリードされる巧みな演出があり、物事は見た目や固定観念、思い込みで判断してはいけないということを、あらためて気付かせてくれる作品でもありました。

どこが良いのかを説明するのは難しい作品ですが、5000近くレビューがあっての高評価も納得できる、良い作品だったと思います。




2023年 Mark!した映画:358本
うち、4以上を付けたのは41本 → プロフィールに書きました
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