真田ピロシキ

ヒルコ/妖怪ハンター レストア&リマスター版の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

3.4
塚本晋也監督の未見作品リマスター版。諸星大二郎の原作漫画を予習してから臨んだのだけれど全然違う。話は色々なエピソードを組み合わせていてそれは良いアプローチと思うのだが、それ以前に雰囲気が似ても似つかない。原作のダークさはどこ吹く風で、舞台となる地方の風景とそこに生きる中学生の姿が長閑な青春の匂いを思わせ、怪異が発生してからも度々そんな空気を纏うためにやや奇妙。その奇妙さこそが本来カルトな人である塚本監督がメジャー映画を手掛けた味なのかもしれない。

また原作ではクールな主人公稗田先生はクールのくの字も見えないどこか抜けた男で最序盤にアパートでゴキブリを見てビビりまくる姿を見た時に全くの別人だと確信できる。妖怪の存在を唱えたために学会から追放された稗田先生は妖怪探知機を始めとした特殊装備を携えて現れるのだが原作にそんなものはない。ゴーストバスターズにしか見えない。あの映画はコメディなのでそんな雰囲気の本作がホラーになる訳もなく。しかも色々ある手作り装備はそこまで役に立たず、終盤まで頼りになるのはバールとキンチョールと言う。バールはまぁFPSに置けるエクスカリバーだったりするけどキンチョールて(笑)コミカルすぎるでしょ。この原作無視も甚だしい稗田先生であるが、この映画の後に描かれたと思われる原作エピソードでは「沢田研二に似ている」と2度も言われているので原作者は結構気に入ってるのかもしれない。

つまんなかったかと言うとそうでもなくて、特撮が気合入ってるらしく生首フェイスハガーのようなバケモノの造形は気持ち悪くて良い。生首ついてない状態だとエイリアン顔したフェイスハガーのようでこのレベルの奴らがうじゃうじゃと出てくるだけでも見る価値ある。コミカルと言ったが首を切断されて血がどぴゃーと出てそういうホラーを求める人の需要には応えられてて、その辺はメジャー作品でも流石インディペンデント映画の人である。遠慮はない。またバケモノ視点で高速移動するカメラなどは前作『鉄男』のエッセンスを受け継ぐ。リマスターに伴ってか青空や田畑、暗黒の古墳内部など非常に綺麗になっていて、最近の映画のように見えるは言い過ぎにしても30年前の映画とは感じない新しさを思わせる映像になってて良い。また映画自体のどこかノスタルジックな趣を美しくなった田畑の風景は強化している。綺麗な映像で涼やかな終わりを見せられては悪い気はしない。