ひでG

戦場のピアニストのひでGのレビュー・感想・評価

戦場のピアニスト(2002年製作の映画)
4.4
素晴らしい映画です。再見ですが、食い入るように壮絶なビアニストの運命を2時間半追体験し、心に強く刻み込まれました。

お恥ずかしいですが、駅でキャラメルを家族で分け合って食べるシーン(あれが最後の家族での晩餐になったんですね、、、)他、瓦礫の中をピアニストが彷徨う場面など僅かなシーンしか記憶に残っていませんでした。

記憶力に衰えを感じる昨今のGですが、2度目に観た本作は一生心に刻まれ、忘れないです。

戦争や民族や人種ごと優劣をつけることが最も愚かだということを!この映画とともにずっと覚えていたいです。

本作のモデルはポーランドのピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンだそうだ。

だか、これは、監督ロマン・ポランスキー自身の体験と言ってもいい。

ロマン・ポランスキーはポーランドのクラクフ出身で幼少期にユダヤ人隔離居住区(ゲットー)で過ごした。両親は収容所に送られて、自身はゲットーを脱出し、戦火の中を逃げ惑い命を繋いだそうだ。
まさにこの映画のモデル、シュピルマンと同じ境遇で生きてきた。

ポランスキーは、この体験を映画にすることをずっと拒んできた。「シンドラーのリスト」の監督オファーも断ったほどその意思は固かったようだ。

そんなポランスキーが最初で最後の自己の戦争体験の映画化だが、それをスピルバーグのように劇的、感傷的に描くことを避けているように感じた。

ネット調べによると、ポランスキーはシュピルマンの自伝がかなり客観的に書かれていることに共感し、映画化を決意したとのこと。

監督は、「良いポーランド人も悪いポーランド人もいるのと同じように、その逆もナチスにも当てはまる。」としている。
その思いが、ラスト近くの、ピアニストの最終救世主の登場につながったのだろう。

ただ、その視点も納得だか、感傷的や劇的効果をなるべく廃したことにより、次から次へと起きるナチスの残虐行為がこれでもかと繰り返される恐怖、それがあまりにも普通に(獣を殺すより簡単に、まるで雑草を抜くがごとく)行われることに、観客も慣れてきてしまうという恐ろしい効果を生んだ。

殺戮でさえ日常になってしまう戦争という行為の計り知れない恐ろしさを、ひ弱で敵に向かって戦う力が全くない、ひょろひょろなピアニストが逃げ惑う姿を淡々と追うことで、私たちに示しているのだ。

そんな人間の生み出した最大の愚行より、
同じ人間が生み出した芸術が優った瞬間を
(そこだけは映画としての劇的効果を用いて)ポランスキーは描きたかったのではないだろうか。

数ある戦争(被害者の立場)作品の中でも、映画史に残る大傑作だと思う。

ポランスキーにとっても、主演のエイドリアン・ブロディにとっても、燦然と輝くキャリアベストだと思います。
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