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ブルー・バイユーのbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

ブルー・バイユー(2021年製作の映画)
2.5

このレビューはネタバレを含みます

養子縁組された子供に市民権が付与されていなかった問題。これ自体は由々しき話だと思う。ただ、この映画の主人公にはそこまで肩入れできなかった。

まず、前科がある。そしてまともな職についていない。冒頭に面接に落ちた描写はあったが、それっきり就職活動をしている様子は無し。じゃあ金を手に入れるためにどうするか?盗んだバイクで走り出すよ!…こんなの同情できる訳がない。百歩譲って独り身ならまだしも、身重の妻と幼い娘がいてこの有り様。もっと死ぬ気で仕事を探し回れよ。常にその場しのぎでどうにかしようとする様子は、観ていて本当にイライラする。

そして義母に頼めば強制送還を免れるかもしれないときに、既に死んでいると嘘をつく。送還を防ごうと妻が必死で頑張っているのに。別にトラウマで義母に会いたくないならそれでいいけど、じゃあ諦めて送還を受け入れるべき。どれだけ周りに迷惑をかければ気が済むのか。妻の言う、「お金の問題じゃない!あなたが全力で頑張るなら私はどこまででも着いていくつもりだった!」に完全同意だった。

結局まともな家庭環境で育たないと、チンピラ崩れから一生抜け出せないのだろうか。根本的な倫理観や責任感などの"正しさ"が身につかないのだろうか。そう考えれば確かに不幸な話だが、でももうとっくに成人しているのだから、やっぱり本人の問題だろう。前科もなく結婚してまともな職についていれば、市民権だって普通に得られたのではないだろうかね。

しかもこの映画は、「物凄くただただクズな警官」を出すことにより、相対的に主人公が"可哀想"な"被害者"になるように作られている。このやり口もいかがなものか。

ただ、主人公と娘の交流シーンが圧倒的に良いんだよなぁ。この主人公の生き様は嫌いなのに、妻子に対する言動は思いやりと愛情に満ちていて本当に好き。見せ方も上手く、余計な台詞で語らせたりしない。ラスト、妻に留まるように諭して去っていく最中、娘から「行かないで!」と声をかけられ全力で戻ってしまうシーンは、ちょっと泣きそうになった。しかしこのシーンで映画が終わってしまうのには驚いたな。主人公のその後とか、家族のその後とか、一切映さないのか。暗転して間が空いて始まったのは現実の不法移民の人々のエピソードだったので、ちょっと消化不良だった。

あと重い病気を患っているベトナム人女性のエピソードは、あまり本筋と上手く絡んでいないような気がした。ちょっと中途半端だったかな。

もっとこの問題をちゃんと取り上げたいなら、まともな主人公に急に強制送還命令がくだるというストーリーにすべきだったのではないだろうか。ちょっとでも自業自得感が出てしまうと問題がぼやけるよなぁ。
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