シミステツ

最後の決闘裁判のシミステツのネタバレレビュー・内容・結末

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

リドリー・スコット監督十八番の歴史物映画。
中世フランス。騎士カルージュの妻マルグリッドがル・グリに乱暴をされたとして生死を賭けた決闘裁判をおこなう。
それぞれの視点から真実が描かれる羅生門スタイル。真実が云々というよりもそれぞれの主観を貫く。

「恋愛の法則」を読み上げるシーンではマルグリッドをめぐるカルージュとル・グリの関係がそれとなく示唆されていた。
「恋は常に育ちゆく または萎える」
「女が男2人に愛されるのを妨げるものはない」

強姦ではなく合意だと愛だと主張するル・グリ。いつの時代にも見る光景。そしてピエールによる免罪。

至ってマッチョイズムだし、裁判になるのもマルグリッド個人の尊厳、倫理の話ではなく、カルージュの財産・所有物を奪ったから、という中世の封建社会のあり方を如実に表しているのが現代のあるべき姿との対比で分かる。馬の種付けのシーンは男目線で女性の自由を奪う家父長制の闇を示唆している。不妊にあたって頂点に達しているかを質し、快楽の必要性を説く医者の存在も不気味。裁判で快楽の頂点を聞くのもセカンドレイプの沙汰。

跡継ぎを所望されるプレッシャー。男たちから見た真実如何はどうでもよい。マルグリッドからの真実では強姦シーンでより拒んでいるのが分かる。マルグリッドが夫に勇気を出して告発したのに、奴を最後の男にしないと言って寝ようとしたのも至極男性性的な身勝手さ。カルージュの母もル・グリは女を弄ぶものだし息子の死の危険があると言って事を荒立てないようにと言うし、救われない世の中。家父長制の中でマルグリッドの声を上げることの勇気、視点がこの映画の価値であり魅力と言える。如何なる犠牲が払われようとも名誉のため真実のため立ち向かう姿。報われない虚しさの中にも彼女の強さが唯一の救いであり、現代においても強いメッセージとして教訓となる。

最後の決闘は惨たらしく見応えがあった。本来そこに男の「勝利」などないのだけど。