ShinMakita

カード・カウンターのShinMakitaのレビュー・感想・評価

カード・カウンター(2021年製作の映画)
3.1

町から町へとカジノを渡り歩き、カードで生計を立てている〈ウィリアム・テル〉。彼は8年半のムショ暮らしでカードカウンティングを学び、勝率を上げる腕を持つ名ギャンブラーだった。しかし目立つことを嫌い、常に小口の勝負だけというのが信条だった。あんたの腕ならデカいスポンサーがつくわよ、と賭け師斡旋業のラ・リンダに言われるも、スポンサーに支援されたら借金を背負うだけと申し出を断っている。そんなある時、セキュリティ会社社長ゴード少佐をツケ狙う青年カークと出会う。ゴードとは少なからず因縁があるウィリアムは、カークを他人とは思えず…


以下、「バカのネタバレ入門」。

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ポール・シュレイダー監督・脚本作品。シュレイダーの映画って、俺の知る限りでは「社会・国・組織に抑圧された異物(遺物)的人間が、義憤に駆られ最後に反撃を試みる」という話で統一されています。このフォーマットのルーツは日本のヤクザ映画のような気がするんだけど(だからこその「ザ・ヤクザ」だと思うんだけど)、どうなんだろう。このシュレイダー的な話はエンタメでは成功しやすくて、例えば「男たちの挽歌」がすぐに思いつきます。仮にルーツが日本にあるとすれば、逆輸入が抜群に上手くいった好例は原田眞人の「カミカゼタクシー」かもしれません。
しかし本家であるシュレイダー自身は近年エンタメよりはアート寄りになっていて、アートなシュレイダー映画みたいだなと思った「ビューティフルデイ」よりも遥かに難解な「魂のゆくえ」なんか作っています。

んで本作。カードカウンティングはあくまでも主人公の背景のひとつに過ぎず、ポーカーゲームのスリルや緊張は描かれていません。ミネソタファッツの出る映画がポーカーの映画だとラ・リンダが誤解した(シンシナティキッドと間違えたか)のは、「本作はポーカーの映画ではない」という宣言にもとれます。この映画はギャンブルの勝負を描いた映画ではなく、自分を罰したい男がギャンブルという無間地獄に自らを追い込んでいるという映画なんですね。なぜ自分を罰したいのか?犯した罪は何なのか?というと、それはイラク戦争下のアブグレイブ刑務所が発端。自分の行った行為の重さから明らかに病んでいるウィリアムの表情と言動、アイザックの熱演が見事で、見どころです。白眉はカークを自室に入れて〈尋問〉するシーン。あの優しさに泣けてきました。

ポーカー用語である「ティルト」が、映画のクライマックスに生きてきます。シュレイダー映画の主人公の行動はみんなティルトな感じですよね。シュレイダーもアメリカという国に幻滅してティルトにこの映画を撮ったのかなぁ。外国人の「USA!USA!」コールをノイズとして使用するあたりも相当な皮肉だし、ティルトに走った主人公に対する目線は相当に優しい。クールなようでいて、実は感情的な映画なんですね。オススメです。
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