ShinMakita

人間の境界のShinMakitaのレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
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☆俺基準スコア:3.2
☆Filmarks基準スコア:4.2




2021年、シリアを脱出したイスラム系難民一家がベラルーシに到着。既に代金払込済みのブローカーに頼りクルマに乗り込んだ彼らとアフガン女性レイラだったが、しばらくのドライブ後、突然鉄条網の前で下ろされてしまう。鉄条網を超えた森の先は夢に見たEUの入口、ポーランドだ。森を彷徨い続けた彼らは、やがてポーランドの国境警備隊に見つかりトラックに乗せられる。次男が暮らすスウェーデンに行きたいと告げる一家だが、警備隊は全く耳をかさず、しかも施設に送ることもなく国境に連れていき、彼らを鉄条網の隙間から無理やりベラルーシに送り返してしまった…


「人間の境界」



以下、ネタバレの境界。

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難民受け入れ拒否映画、と聞いていたので、「受け入れないポーランドってヒドイ!」というのを描いた社会派ドラマか…と想像していましたが、そんな短絡的な話じゃありませんでした。

「難民」と聞いたら、そのビジュアルをどのように想像します?ふつう、ボロボロの服着てゾロゾロ歩いてくるか船の底やコンテナに押し込まれた姿とか想像しません?
…本作の難民たちは、なんとトルコ航空の旅客機で優雅にベラルーシに到着するんです。その様子は、まるで普通の旅行者。機内サービスの花とか配られてるんです。およそ難民っぽくないんですよ!ベラルーシ、難民ウェルカムな雰囲気なんです。空港についたら、一家の皆さんもリラックスしてバス乗ってちびっ子たちもワクワクですよ。このまますんなりスウェーデンに行けると。しかし実はそうじゃない。ベラルーシは難民を一切受け入れる気も輸送する気もなく、暴力的に鉄条網から不法にポーランドに文字通り「投げ込んで」いくのです。EUと不仲のルカシェンコ大統領の嫌がらせ…ビザを乱発して中東やアフリカから故意に難民を呼び寄せて、ポーランドやドイツなどEU側に無理やり放り投げるんですな。ポーランド政府も激怒して、鉄条網エリアを立入禁止区域に指定してマスコミや人道支援グループをシャットアウトし、投げ込まれた難民たちを「人間兵器」と呼んで秘密裏にまた鉄条網からベラルーシ側に送り返します。するとベラルーシ側はそれを拾って劣悪キャンプに一旦集めて、また鉄条網からポーランドに押し返す…これ永遠に終わらないじゃないか!
映画は、この無限ループにハマった一家の目線、ポーランド国境警備隊員ヤネクの視点、ポーランド側に放り込まれて警備隊に捕まる前の難民をケアする人道グループの視点、そして国境近くに住む精神科医ユリアの視点と章分けして、この悲惨な現実を描いています。ベラルーシとポーランドの小競り合いに利用され命を落としていく難民たち。軍や警察に捕まるリスクを負いながらも同じ人間として手を差し伸べる者たち。様々な人間模様が交錯するドラマの面白さも味わいつつ、全く知らなかった現実と全く異質の難民問題を直視する2時間半。衝撃の鑑賞体験でした。エピローグの、ウクライナ難民を受け入れるまさに人道主義の手本のようなポーランド国境警備隊の姿は国家のダブルスタンダード/矛盾の象徴で、虚しくなります。オススメ。
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