takanoひねもすのたり

LAMB/ラムのtakanoひねもすのたりのネタバレレビュー・内容・結末

LAMB/ラム(2021年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

ホラーではないですなあ……自分はダークなファミリードラマだと思いました。

アイスランド、人里離れた土地で牧羊をして暮らすイングヴァル(ヒルミル・スナイル・グドゥナソン)とマリア(ノオミ・ラパス)一斉に出産の時期を迎えた春、一頭の羊から産まれた半人半羊の赤ん坊。子供を失くしその傷が癒えていなかった夫婦はそれを"アダ(死んだ子供の名前と同じ)"と名付け溺愛する。すくすくと育つアダと暮らし幸せに季節は春から夏そして秋へと移りゆくが………。

非常にミニマムな絵作り。
理性的に計算した引き算の絵と台詞。
雄大にそびえ立つ山、霧、そして草地。
自然の密度がなく(まず木が無いので視界が広い)人の気配も動物の気配もない場所。
隔絶されたようなところ。

序盤は夫婦ふたりの日々の生活を、そこにアダという異形が加わってても変わらない、寧ろアダへ愛情を傾けてゆく"家族"の形を淡々と見せてゆく。

このへん非常に童話っぽい話だなと。
いくら子供を失くした夫婦とはいえ異形の子供をすんなり"奇跡"であると当然のように受け入れる姿は、現実離れしている。
 
序盤で、畜産業を描いているにしては微妙に何で生計たてているのか分からん……と感じていたので、そこらへんから頭が"これは設定から背景まで全てファンタジー"に切り替わって観ていた。

異変の日はクリスマスの夜の訪い、それから春に産まれる半人半羊の子供、我が子同然に受け入れるマリアとイングヴァル(なんならヨゼフ)母羊の排除、楽園の構築、マリアとペートゥル(イングヴァルの弟)との過去の仄めかし(原罪)バフォメット然とした半人半羊に連れ去られるアダ(なんなら幼きキリスト)

と……聖書的なあれこれは目につくけれど
、キリスト教が"知識"でしかない自分にとっては、こういうことかな?の度合いがこれくらいが限度。またそれ以上は深堀りする熱量はあんまりわかない作品ではある……。

決してつまらなかったわけではなく、寧ろ好みのほうではあるんですが、頭の片隅で深堀してもなあ……という囁きが 笑

特筆すべきは、羊の演技、犬の演技、猫の演技のうまさ。
何だ君ら、その雰囲気の醸し出すうまさは。

特にアダに抱っこされて(解せぬ……)顔の猫の表情が微笑ましい。

さてラスト。
何故イングヴァルだったのか。
(その前に犬が殺られている)

個人的な解釈としては、
マリアが母羊を殺したこととのミラーリング。
マリアはアダの母羊を(めぇーめぇーうるさい、私があの子の母親よ)という気持ち満々で殺ったと思うので、
アレから見ればイングヴァルに対して(ちょっかい出すな、俺が父親だ)になる訳で。

あとマリアに対して母羊を殺して埋めたことに対しての見せしめの意味があったのかも知れないし、そうなら罪を償わせるという意味合いもあるのかも。分かりませんが。

優秀な牧羊犬を失くし、夫を失くし、弟は旅立ち連絡はすぐにはとれないだろうし、マリアの生活の立て直しは難しいんじゃないかな……とは思います。
厩舎が母屋と山の上にふたつ、羊の世話はひとりでは無理(二人以上必要)牧羊犬もいないとなったら、取りあえず眼の前に迫る冬を前に羊をどう厩舎へ集めるかで頓挫しますね……。

という自分の解釈を含めダークファンタジー+家族ドラマでした。