ぱいじ

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲のぱいじのレビュー・感想・評価

5.0
文句なしの傑作。
20年ほど前、幼い頃に何回も見た。それ以来の視聴。
○ほぼ全てのシーンで「懐かし〜」と言ってしまった。画面を見ると、当時の記憶が全てのシーンで蘇ってくるのだ。しかし、この言葉こそが本作のテーマであり、私も20代にして既に「オトナ」側に回ってしまったのだなというなんとも言えない心境になった。
○改めて見て気づいたのは、本当に無駄なシーンが一切ないなという脚本に対する称賛の気持ち。まずサクッと物語の状況を描写し、中盤のシーンでギャグシーンをふんだんに盛り込み(しかも、しっかり面白いことに驚いた。アルコールが入っていたのもあり、爆笑の連続だった)、終盤で嫌味のない(ここ重要)感動とともにきれいに物語を折りたたむ。90分とは思えない満足感。数々の映画を見てきたが、本作に比肩する脚本の映画はそう多くない。見事。
○最後に、ケンについて。チャコからも指摘されているとおり、何故わざわざ敵である野原一家に自分の野望を阻止するチャンスを与えるのか。個人的な考察だが、ケンはたとえ相手が21世紀を切り拓こうとする敵であっても、その「思い」の熱量で自分を上回っていてくれさえすれば、それはそれで良かったのだろう。だから、匂い拡散装置が機能しなくなってしまった際も、案外呆気なくその結果を受け入れていた。中盤でも「高度経済成長的な頑張りを期待する」とか言っていた彼は、きっと「熱量のある時代(=昭和)」を望んでいただけなのだろう。21世紀を切り拓こうとする若者にも、昭和を生きた人々のような熱量と活気があれば、喜んで時代を譲ろうという思想だったのだと考える。
○果たして、令和を生きる我々にはケンが期待するような熱量があるだろうか。科学技術の進歩により文明が便利になる一方、価値観が多様化し、無数の不確実な不安に常にさいなまれる令和の時代には、昭和にはない様々な困難が渦巻いている。この複雑な時代、昭和のような分かりやすい希望を抱くことは容易ではないが、それでも笑いながら明日を生きていこう、子供の頃(=昭和、平成)の方が良かったなんて言わせない世の中にしていこうぜと、しんのすけに活を入れられるような名作である。私はこれから、元号が変わるたびに本作を見返したい。懐かしさへの対抗という、おそらく世界中のどの映画を見ても同じプロットが見つからない独創性100点満点の本作は、しかし同時にいつの時代でも通用し、全ての世代に深く突き刺さる普遍の名作であると確信しているから。